研究課題/領域番号 |
19K23920
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
山本 隆広 熊本大学, 病院, 医員 (30849089)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | 膠芽腫 / 遺伝子翻訳 / RNA修飾 |
研究実績の概要 |
膠芽腫は最も予後が悪い脳腫瘍であり、新規治療法の開発が求められている。とくに2016年のWHO脳腫瘍分類改定以降は遺伝子診断が重要となったことで、遺伝子調節機構をターゲットとする治療法の開発が期待されている。膠芽腫研究では遺伝子の「発現」や「転写」調節機構の研究は進んでいるものの、「翻訳」調節機構に関する研究は遅れている。これまでの研究成果から遺伝子「翻訳」の領域が新たな治療ターゲットとなりうると考え、本研究ではtRNA修飾酵素TRIT1に着目して研究を行っている。本研究の準備段階で作成してあったshRNAを使用し、ヒト膠芽腫培養細胞のTRIT1をノックダウンしたところ、細胞増殖の低下を認めた。この現象が3種の膠芽腫細胞株で同様であることを確認した。TRIT1はミトコンドリアの遺伝子翻訳にかかわっていることからミトコンドリアの機能解析をフラックスアナライザーにて行ったが、ミトコンドリアの機能低下はさほどではなかった。他のメカニズムを探索することとし、TRIT1はセレノシステインtRNA(tRNA(Sec))を修飾することが知られていることから。セレノシステインを含むタンパクであるセレノプロテインの遺伝子翻訳(タンパク合成)にTRIT1が重要ではないかと考え研究を進めたところ、セレノプロテインのタンパク減少と器官のサイズを制御するとされるシグナル経路への影響が明らかとなった。今後もこの研究を継続することで、遺伝子「翻訳」という領域が新たな治療ターゲットとなりうることが証明されれば、悪性脳腫瘍に対してこれまでにない治療戦略をもたらしうると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではtRNA修飾酵素TRIT1に着目して研究を行っている。本研究の準備段階で作成してあったshRNAを使用し、ヒト膠芽腫培養細胞のTRIT1をノックダウンしたところ、細胞増殖の低下を認めた。予備実験では1種の膠芽腫細胞株(U251)のみで確認された現象であったが、他2種の膠芽腫細胞株(U87、LNZ308)で同様であることを確認した。現在、膠芽腫幹細胞株での検証を行いつつ、脳腫瘍移植モデルマウスでの検証実験を準備中である。またそのメカニズムとしては、予備実験ではEGFRとの関連が示唆されていたが、研究を進めた結果、別のパスウェイ(Hippo経路)との関連が明らかとなった。現在、この経路に与える影響に関しても調べを進めているところである。またTRIT1はミトコンドリアの遺伝子翻訳にもかかわっていることからミトコンドリアの機能解析をフラックスアナライザーにて行った。この検証では通常環境下ではTRIT1ノックダウン細胞にミトコンドリアの機能低下はさほど認めなかったが、グルコースを制限した培養液環境下ではミトコンドリアの機能低下を認めた。こちらに関してもワールブルグ効果等との関連をさらに検証することでTRIT1にがん特異的な機能があるのではと仮説を立てて、研究を進めている。TRIT1による現象の検討に関しては予定通りの進捗状況であり、現在は創薬につなげるためのメカニズムの解明に注力している状況である。
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今後の研究の推進方策 |
前述の通り、膠芽腫細胞におけるTRIT1ノックダウンによる現象の検討に関しては予定通りの進捗状況であるものの、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、動物実験が行えず停滞している部分もある。この点に関しては、感染の終息を待ち、再開を予定している。また、予備実験ではEGFRとの関連が示唆されていたメカニズムが、研究を進めた結果、別のパスウェイ(Hippo経路)との関連も明らかとなったため、創薬につなげるためのメカニズムの解明に必要となる実験が大幅に増えることが予想される。この点に関しては十分な検証が必要であり、時間をかけることは不可避であると考えている。本研究はRNA修飾を癌治療のターゲットとするこれまでにない治療戦略を模索する研究であるが、創薬実現へ向けたプロセスを学ぶため、DNA修飾を治療ターゲットとして創薬研究まで行っている海外の研究室との意見交換等を行い、今後の研究の推進をはかっている。
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次年度使用額が生じた理由 |
膠芽腫細胞におけるTRIT1ノックダウンによる現象を確認する実験に関して、細胞培養における検討に関しては予定通りの進捗状況であるものの、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、予定していた動物実験が次年度にずれ込んだ。感染の終息を待ち、動物実験を行う際に使用予定である。
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