本研究では、細胞質内のカルシウムイオン濃度の一時的な濃度変化であるカルシウムシグナルに着目してきた。カルシウムシグナルはセカンドメッセンジャーとして様々な生命現象において用いられているが、癌細胞における働き、特に薬剤抵抗性に関連した働きの報告は乏しい。その中で、5-FU耐性をもった細胞株においてはカルシウムシグナルの減少速度が速いことから、カルシウムポンプの発現解析を行った。昨年度までの研究によって、薬剤抵抗性の獲得に影響したと考えられる遺伝子を2種類同定した。その結果を受け、最終年度においては、この遺伝子の5-FU無処理条件における発現強度と5-FU耐性の評価を8種類の細胞株で行った。その結果、1つの遺伝子は発現が強いほど5-FUへの薬剤耐性が強い傾向が弱いながら見られ、逆にもう一方の遺伝子では、発現レベルが高いほど5-FU耐性が弱い傾向が見られた。どちらも5-FU処理によって発現が誘導される、コードするのは、どちらもカルシウムポンプであり、機能的には重複する。この2種類のカルシウムポンプの発現が薬剤耐性の獲得にどのように関与するか、追加の実験を行う。具体的には、siRNAを用いて該当の遺伝子発現をノックダウンした際の薬剤感受性や、カルシウムシグナルの形状などを評価する予定である。最終年度においては、ノックダウンの予備実験を行った。今後、薬剤感受性と共焦点レーザー顕微鏡を用いたカルシウムシグナルの観察を行い、これらの結果を論文にまとめる。
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