研究課題/領域番号 |
19K23928
|
研究機関 | 埼玉県立小児医療センター (臨床研究部) |
研究代表者 |
大嶋 宏一 埼玉県立小児医療センター (臨床研究部), 血液腫瘍科, 医長 (60525377)
|
研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2022-03-31
|
キーワード | 神経芽腫 / CRISPR / スクリーニング |
研究実績の概要 |
<目標1:テトラサイクリン誘導Cas9発現神経芽腫細胞株の樹立> 神経芽腫細胞株にpCW-Cas9-Blastレンチウイルスベクターを導入する前に、このシステムが適切に機能するかを急性リンパ性白血病 (ALL) 細胞株 (REH細胞) にて検証を行った。ベクター導入後にシングルセルクローニングを行い、最適なクローンを選択することができたため、スクリーニングが機能するかをALLの治療に用いられる複数薬剤を用いて検証した。その結果、全ての薬剤スクリーニングにて適切と考えられる薬剤抵抗性もしくは感受性に関連する遺伝子及びパスウェイを同定することができ、本システムが適切に機能することを確認することができ、昨年度に報告に至った (Oshima K et al. Nature Cancer, 2020)。 <目標2:上記神経芽腫細胞株に対するシスプラチンの濃度および投与期間の最適化> 神経芽腫治療で最重要薬剤の1つであるシスプラチンの投与開始7日後の細胞生存率が20%となる薬剤濃度を決定するのが本目標であり、ALL細胞株と同様の計画で神経芽腫細胞株における至適なシスプラチン濃度を決定すべく、準備を進めたが機器不調とロックダウンが重なり、培養細胞が死滅するなどで実験中断時間が長くなり、薬剤濃度の最終決定に至っていない。 <目標3:CRISPRスクリーニングを用いた治療不応性神経芽腫のメカニズムおよび創薬ターゲットの同定> 本目標を達成するには、細胞株の薬剤治療、DNAシーケンス、シーケンスデータ解析、in vitroおよびin vivo実験によるスクリーニングの結果の検証という一連のプラットフォームの確立が重要かつ必須であるが、ALL細胞株を用いたスクリーニングにてプラットフォーム確立を確認することができたため(Oshima K et al. Nature Cancer, 2020)、目標2が完了すれば神経芽腫細胞株を用いたスクリーニングに移行可能である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
CRISPR技術を用いたスクリーニング実験の根幹である最適クローンの選別方法、スクリーニング実験後のDNAシーケンスおよびそのデータ解析をどのように行うか・適切に行えるのか、という最重要ポイントの確認作業に、使い慣れた急性リンパ性白血病細胞株を用いた。当初の想定以上にこの確認作業に時間を要してしまったが、いったん、このプラットフォームを確立すれば、他の細胞株を用いたスクリーニングも比較的容易に行えると考えられる。 実験途中で機器不調のために培養細胞が死滅するという事態と、昨今の社会情勢のために、長期の在宅勤務をせざるを得ない状況も重なり、進捗がやや遅れている。
|
今後の研究の推進方策 |
<目標1: テトラサイクリン誘導Cas9発現神経芽腫細胞株の樹立> 神経芽腫細胞株にpCW-Cas9-Blastレンチウイルスベクター (Addgene #83481) をレンチウイルス感染にて神経芽腫細胞株に導入し、研究室に設置済みのセルソーターを用いてシングルセルクローニングを行い、最適なクローン (テトラサイクリン非存在下にはCas9を全く発現せず、存在下には強力な発現を誘導する) をWestern blotを用いて選択する。 <目標2: 上記神経芽腫細胞株に対するシスプラチンの濃度および投与期間の最適化> 神経芽腫治療で最重要薬剤の1つであるシスプラチンの投与開始7日後の細胞生存率が20%となる薬剤濃度を決定する。実験には研究室に設置されたプレートリーダーを用いて、MTTアッセイを行う。 <目標3: CRISPRスクリーニングを用いた治療不応性神経芽腫のメカニズムおよび創薬ターゲットの同定> 目標1と2を本年度前半に達成した後に、細胞株の薬剤治療、DNAシーケンスおよびシーケンスデータ解析を実施する。その後、in vitroおよびin vivo実験によるスクリーニングの結果の検証を行う。ただし、バックアッププランとして、これまで複数の神経芽腫細胞株を用いたスクリーニングの報告がなされているため、それらを利用し、有望な遺伝子に着目し、機能解析を進め、新規治療に繋がりうる発見に務める、という実験も行う予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
機器不調による培養細胞死滅と、本年度は年度の後半には昨今の社会情勢のために、長期の在宅勤務をせざるを得ない状況も重なり、進捗がやや遅れてしまい、本年の支出は抑えることができた。次年度は、白血病細胞株で養った実験のプラットフォームが確立したために、予定していた神経芽腫の細胞株を用いたスクリーニングに移行できると考えられる。 しかしながら、バックアッププランとしては、これまで報告すみの神経芽腫細胞株を用いたスクリーニング結果を利用した有望遺伝子抽出も行い、自らのスクリーニングを介さずに神経芽腫関連遺伝子に対する機能解析を行う実験も予定しており、それらの実験にも研究費を使用する予定である。
|