研究課題
遺伝性早老症であるウェルナー症候群(以下、WS)は、思春期以降に様々な老化徴候が出現し、促進されるため、ヒトにおける老化のモデル疾患として注目されている。糖尿病、動脈硬化、悪性腫瘍などの症状を呈する中、特に肘や踵などの難治性皮膚潰瘍は激痛を伴うことで患者のQO Lを著しく低下させるが、その発症機序は不明である。当研究室ではこれまで、WSのガイドライン策定や患者レジストリーの構築などを行ってきた。その中で、WSの皮膚潰瘍は、肘やアキレス腱、踵などの伸展刺激を受けやすい部位で多く発症することを見出した。そこで、本研究では診療を通して得られたWS患者由来細胞を用いて、メカニカルストレスが細胞老化や細胞死を引き起こすかどうかを解析し、WSにおける皮膚潰瘍の発症機序解明を行うことを目的とした。我々は、これまでに9名のWS患者から皮膚線維芽細胞を樹立し、以下のデータを得ている。1. WS線維芽細胞への伸展刺激は、細胞の骨分化を促す。2. WS線維芽細胞を用いたRNAシークエンスで、骨分化や細胞老化に関わる遺伝子が特異的に変動している。またこれらは体幹と四肢の線維芽細胞で異なっており、部位特異性が認められる。3. WS線維芽細胞を用いたメタボローム解析では、WS線維芽細胞特異的に蓄積するメタボライトが複数存在する。今後は体幹および四肢由来のWS線維芽細胞において、両者で発現が異なる遺伝子に着目し、分化能等に影響を与えるか否かについて検討する。また、それらと臨床所見との関連についても解析を進める。
2: おおむね順調に進展している
希少疾患であるWSの線維芽細胞を、自施設で複数名から樹立し、それらをトランスクリプトーム解析した。その結果、ある種の遺伝子発現が亢進していることを新規に見出した。また、WS線維芽細胞の部位特異性についても新たな知見を得られた。
今回得られた知見を元にWS線維芽細胞の遺伝子発現部位特異性がメカニカルストレスによるものか否か、検討を進める。
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Nature Communications
巻: 10 ページ: 1-8
https://doi.org/10.1038/s41467-019-13172-8