研究課題/領域番号 |
19K23942
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山内 一郎 京都大学, 医学研究科, 助教 (20844715)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | 免疫チェックポイント阻害薬 / irAE / 甲状腺 / 下垂体 / ニボルマブ / PD-1 |
研究実績の概要 |
免疫チェックポイント阻害薬の使用症例の増加に伴い、特有の有害事象(irAE)の中でも10%以上の高い頻度で生じる内分泌障害のマネジメントは不可欠である。免疫チェックポイント阻害薬の中で最も普及し多くの症例に使われている抗PD-1抗体について、我々は最も頻度の高い甲状腺irAEに関する検討を行い、その臨床像と予後因子としての可能性を報告してきた(Yamauchi et al. Thyroid 2017, Yamauchi et al. PLOS ONE 2019)。本研究では多数の症例と豊富な検査結果を含む自施設の患者データを用いた臨床研究を行い、有用な知見を提供し、さらには発症機序の解明をも目的とする。
まず、これまで不明であった抗PD-1抗体による下垂体irAEの臨床像について、当院のニボルマブ使用症例の解析から、抗CTLA-4抗体による下垂体炎とは異なる特徴を有し、特殊な甲状腺機能異常を伴うことを見出すことができ、論文投稿準備中である。
発症機序について検討するにあたり、甲状腺irAEが予後因子であるという先行研究から「甲状腺と癌の共通抗原に対する自己抗体が産生される」という仮説を立て、新規の自己抗体を探索するために患者血清と甲状腺特異蛋白を用いた共免疫沈降のアッセイ系を構築した。現在までに甲状腺irAE発症3例の血清を用いて検討を行い、これまでに報告のない自己抗体が含まれることが示唆される結果を得た。今後は内分泌障害が惹起される機序について、自己抗体をマウスに投与し、その表現型の解析を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
免疫チェックポイント阻害薬の中で最も普及している抗PD-1抗体を優先して、自施設のコホートを用いたレトロスペクティブ研究を進めた。下垂体irAEの臨床像について明らかにすることができ、既に論文投稿するための準備を進めている。
エビデンス構築を行う一方で、広く臨床的知見を広めるために学会発表を以下のように行った。 「抗PD-1抗体による甲状腺機能異常の発症リスクと生命予後との関連」第62回日本甲状腺学会学術集会、「甲状腺、下垂体、膵にニボルマブの免疫関連有害事象を生じた1例」第28回臨床内分泌代謝Update、「イピリムマブ・ニボルマブ併用中に発症した続発性副腎不全の一例」第28回臨床内分泌代謝Update、「抗PD-1抗体による甲状腺機能異常:生命予後との関連を中心に」第28回臨床内分泌代謝Update
発症機序の検討についても、甲状腺irAE発症患者の血清中に甲状腺特異蛋白に対する自己抗体が存在することを示唆する結果を得ることができた。この新たな知見をもとに機序を明らかにするべく、当該抗体をマウスに投与し、その表現型の解析を行っていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
先行研究(Yamauchi et al. PLOS ONE, 2019)では200例のニボルマブに限定したコホートを用いて甲状腺irAEについての検討を行ったが、今回下垂体irAEの検討を行うにあたり集計したところ同様の条件でも400例近い症例数が蓄積されていた。そこで、甲状腺irAEについて、企業による臨床試験では得られない癌腫毎・薬剤毎の発症頻度の算出や、先行研究では十分に検証できなかった甲状腺irAE発症までのGuarantee-Time Biasを除去するためのランドマーク生存期間解析など、十分なサンプルサイズのもとに追加解析を行う予定である。 有用な臨床的知見を提供するという目的のもと、継続して症例報告も行っていく。特にニボルマブ・イピリムマブ併用例のirAEを多く経験しており、発表を予定している。 発症機序の検討については、症例数を増やして自己抗体の探索を継続していくのに加え、同定できた自己抗体について、特異抗体や患者血清由来免疫グロブリンなどをマウスへ投与し、irAEモデルマウスの作成を目指す。irAEモデルマウスが得られればその表現型の解析により、発症機序の解明へ大きく進展すると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
学会発表のため計上していた旅費について、COVID-19に関連した中止により余剰が生じた。今後改めて発表予定であり、次年度に計上する。
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