統合失調症は人口の1%弱が罹患し比較的頻度が高く、再発・慢性化しやすい精神疾患で社会経済的負担が大きいが、未だ発症の分子メカニズムは解明されておらず、根本的治療の実現には至っていない。我々は、新規の技術による前頭前皮質のプロテオーム解析(2DICAL法)を実施し、統合失調症においてAldehyde dehydrogenase 4 family member A1(ALDH4A1)が著明に上昇していることを見出した。ALDH4A1はプロリンが代謝されてグルタミン酸に至る経路内の酵素の一つである。その後症例数を増やし、より定量性の高いタンパク質測定法であるELISA法を用いて、統合失調症の病態において重要であると考えられている前頭前野、上側頭回について統合失調症、双極性障害、健常対照例を含む計64例の死後脳のALDH4A1の発現量を測定し、また同じサンプルセットの一部におけるALDH4A1の発現量とプロリン代謝経路に関わる分子の遺伝子多型(SNPs)との関連を解析した。その結果、1)前頭前野と上側頭回で統合失調症群及び双極性障害においてALDH4A1が有意に上昇すること、2)前頭前野のALDH4A1発現量は、プロリン代謝に関わる分子であるプロリダーゼの遺伝子(PEPD)のSNPs(rs33823、rs153508)とP5Cシンセターゼの遺伝子(ALDH18A1)のSNPs(rs10882639)とそれぞれ有意に相関することが分かった。 本研究では上記を踏まえ、ALDH4A1発現量と相関を示す3つのSNPsの位置する遺伝子(ALDH18A1、PEPD)によりコードされるP5Cシンセターゼ、プロリダーゼの死後脳におけるタンパク発現量について測定し、関連する論文を一篇報告した。
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