研究課題
1)ヒト肝星細胞の老化関連分泌因子として特定したANGPTL4、IL-8、PF4V1の3因子(老化3因子)に注目し、これらが肝がん細胞に対してどのような影響を与えるのかをin vitroにおいて解析した。HepG2・Li-7・SNU387といったヒト肝がん細胞株を用い、組換えヒトIL-8蛋白質(rhIL-8)、組換えヒトANGPTL4蛋白質(rhANGPTL4)をこれらの細胞に添加し、その細胞数をWSTアッセイにより評価し、その増殖に与える影響を解析した。その結果、rhIL-8・rhANGPTL4の添加ではいずれの細胞にも増殖に対する有意な影響は認められなかった。2)慢性肝疾患の例として慢性C型肝炎に注目し、C型肝炎治癒後に発がんした症例と発がんしなかった症例の肝組織切片を解析し、腫瘍部および周辺部の肝星細胞を解析した。肝星細胞のマーカーとしてαSMA、老化細胞の指標としてp21を指標として用い、二重蛍光免疫染色法を用いて老化肝星細胞の同定を試みた。一部の検体でαSMA陽性・p21陽性の細胞を認めたが、切片全体において1~2個程度しか認められず、指標の再検討が必要であることが分かった。3)マイクロアレイ解析の結果より、老化肝星細胞でRetinol binding protein 1(CRBP1)遺伝子の発現が減弱していることが明らかになり、ウェスタンブロット解析によって蛋白レベルでも発現量の低下を確認した。NAFLD患者の肝生検標本を用いて、CRBP1とCYGBによる二重蛍光免疫染色を行ったところ、60歳以上の患者では60歳未満の患者に比較して二重陽性細胞数が有意に少なかった。これらの結果から、加齢とCRBP1の減弱の間に相関がある可能性が考えられた。
3: やや遅れている
老化3因子が肝癌細胞の増殖に対して与える影響については、IL-8・ANGPTL4に関しては解析できたが、PF4V1については検証できていない。また、老化3因子がヒト肝がん細胞に対して遺伝子発現レベルで与える影響については解析できていない。上記3因子を添加したヒト肝がん細胞のサンプルを用いて、細胞周期や増殖・アポトーシスに関連する遺伝子発現をqPCRによって解析し、その遺伝子発現の変動を解析する必要がある。慢性C型肝炎/肝硬変患者の肝組織における老化3因子発現肝星細胞の同定については、想定していた指標ではうまく同定できていない可能性があり、指標の再検討が必要であると考えられる。
老化3因子のうちIL-8とANGPTL4に注目し、これらと肝癌細胞との相互作用についてin vitroにおける解析に重点をおいて研究を進行する。老化肝星細胞サンプルを用いたウェスタンブロット解析では、老化肝星細胞においてp16の発現増加が再現性をもって認められた。慢性肝疾患患者の肝組織における老化3因子発現肝星細胞の同定に、p16を指標として用いることで、より効率的に識別できる可能性があると考えられた。
研究の進展状況が当初の予定より遅れたことや、当初予定していた学会に参加することができなかったことで次年度使用額が生じた。次年度の研究における物品費や学会発表に伴う旅費などに使用したいと考えている。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)
Scientific reports
巻: 10 ページ: -
10.1038/s41598-020-60440-5.