研究課題
小児難治性てんかんなどの遺伝性の神経疾患は、胎生期の中枢神経系の異常によって生じる。その多くは発生メカニズムが十分に解明されておらず、故に根本的な治療法も存在せず、病態解明が早急に必要とされている。小児難治性てんかんの一つであるMowat-Wilson症候群(MWS)は、出生直後より様々な中枢神経症状を呈する重篤な遺伝病であり、ZEB2(zinc finger E-box-binding homeobox 2)遺伝子の欠損によって生じる。これらのヒト脳疾患の研究には、げっ歯類を用いた病態再現が試みられてきたが、ヒト脳との構造の違いから、疾患の病態解明を行うのは困難であった。近年、in vitroでヒトES/iPS細胞からヒト脳の構造を再現した細胞塊(オルガノイド)が樹立されている。本研究では、CRISPER/Cas9によるゲノム編集で得たZEB2欠損ヒトES細胞から樹立したヒト脳オルガノイドを用いて、MWS症候群の病態解明を目的とした。初年度には脳幹オルガノイドを樹立し、質量分析法やsingle-cell RNA-seq(scRNA-seq)といったタンパク質の網羅的解析を行った。脳幹オルガノイドには、これら網羅的解析において、脳幹、小脳の成分が含まれていた。最終年度では、中脳オルガノイドを樹立し、scRNA-seq解析を行うとともに、脳幹オルガノイドとの比較解析を行った。これら2つの脳オルガノイドは、神経成分の他に中胚葉由来の成分も有しており、免疫細胞や間葉系細胞の存在が示唆された。ZEB2欠損ヒト脳幹オルガノイドの樹立を行い、容積低下がみられること、アポトーシスを示すマーカーであるAC3陽性の細胞が増加しており、MWS症候群でみられる小脳症、精神発達遅滞の原因となりうる。脳幹オルガノイドは、MWS症候群などの遺伝性の神経疾患の病態解明に有用であると考えられた。
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