研究課題
私は,TARDBP 3’UTR のDNAメチル化状態が選択的スプライシング機構を介し,TARDBPの発現量を規定するのではないかと推測した.まずはゲノム編集の手法により,HEK293T細胞のTARDBP 3 'UTR にあるCpG部位を特異的に脱メチル化させ,TARDBPの選択的スプライシング効率とmRNA発現量を評価した.次に,非中枢神経疾患患者 8例由来の凍結剖検脳組織 (運動野皮質,後頭葉皮質および小脳半球) を用いて,TARDBP 3 'UTR のCpG部位のメチル化状態を解析した.さらに,運動野皮質において,TARDBP 3’UTRのDNAメチル化率と選択的スプライシング効率の関連を検討した.TARDBP 3’UTRの15か所のCpG部位を標的特異的に脱メチル化させた細胞では,コントロール細胞と比べ,TARDBP pre-mRNAの選択的スプライシング効率が減弱し,TARDBP mRNA 発現量は約2倍に増加した.剖検脳組織の解析では,TARDBP 3'UTRのDNAメチル化率は,脳領域に依存して異なっていた.運動野皮質では,これらのCpG部位のDNAメチル化率は,年齢とともに減少していた.さらに,運動野皮質において,TARDBP 3'UTRの一部のCpG部位のDNAメチル化率は選択的スプライシング効率と有意に正の相関を示した.これまでの研究において,TARDBP 3'UTRのDNAメチル化状態が,TARDBP mRNAの発現量を規定することを示した.また,健常脳組織の解析から,TARDBP 3'UTRのDNAメチル化状態は,脳領域や加齢による影響を受けやすいことが示唆された.ALS病態におけるエピジェネティクスの寄与を明らかにするため,研究再開後は,孤発性ALS患者脳を用いて,TARDBP 3’UTRのDNAメチル化状態が変容しているか,調べる予定である.
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