研究課題
骨破壊を担うユニークな多核細胞である破骨細胞は、「骨髄」で骨の恒常性維持に重要な役割を果たす一方、関節リウマチ(RA)では「関節」の病的な骨破壊を惹起する。これまで骨髄の破骨細胞やin vitroで培養して分化させた破骨細胞様細胞の研究は精力的に行われてきたが、関節で病原性骨破壊を担う破骨細胞の研究は少ない。申請者は、独自に編み出したプロトコールを用いて滑膜組織を単離し、病原性の破骨前駆細胞がCX3CR1-EGFP陽性細胞中に含まれることを同定した。これら破骨前駆細胞は、TNFとRANKLの共刺激により顕著な破骨細胞分化能を有し、シングルセルRNA-seq解析ではこれら細胞集団の中でさらに約1割を占める特定の分画が、病原性の破骨細胞へとin situで分化していることが明らかとなった。続いて、C57B6/J背景の成熟破骨細胞を特異的に蛍光標識したレポーターマウス(TRAP-tdTomato)を、関節炎に感受性が高いDBA1/Jと10世代以上戻し交配したマウスを用いて、コラーゲン誘導関節炎(CIA)を惹起した。吸入麻酔管理下で生きたまま滑膜ー骨接合部(Bare area)を露出させ、二光子励起顕微鏡を用いて観察したところ、健常マウスには存在しない骨浸食像が多数関節骨表面に観察され、その表面を病原性の破骨細胞(TRAP-tdTomatoで標識)が覆っていた。さらに、破骨細胞が出す酸を感知して蛍光がONとなるpH応答性蛍光プローブを活用し、プローブ投与後の関節炎モデルマウスの膝関節切片を様々なpHの条件下で観察した。結果、酸性条件下でのみpH応答性蛍光プローブが骨髄と滑膜ー骨接合部の骨表面で観察され、関節炎においても同プローブが機能することを確認した。次年度はこのシステムを用い、in vivoで病原性の破骨細胞が関節骨を破壊する様子を観察する。
2: おおむね順調に進展している
関節組織における病原性の破骨前駆細胞の同定に成功し、さらに蛍光生体イメージング技術を駆使して関節炎モデルマウスの滑膜組織において病原性破骨細胞を観察することに成功しており、令和元年度終了時としては順調に経過している。
関節炎を惹起した破骨細胞レポーターマウスとpH応答性蛍光プローブを用い、本研究で考案した関節組織の蛍光生体イメージング技術を組み合わせることで、関節組織内において病的な破骨細胞がいかにして骨破壊を惹起するのか明らかにする。加えて、既存の関節炎治療薬がこれら関節炎を誘導するエフエクター細胞に生体内でいかに作用するのか観察する。
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Proceedings of the Japan Academy, Series B
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