心筋梗塞は、国内外で主要な死亡原因である。再灌流療法は最も有効な治療法だが、心筋虚血再灌流障害を起こし、心不全を誘発する。本研究では、マウスから採取した心臓を用いた心筋虚血再灌流障害モデルを用いて、Toll様受容体9を中心とした解析により、心筋虚血再灌流障害における自己免疫応答のメカニズムの基礎的検討を行い、新しい心不全治療の開発につなげることを目的とした。 本研究の心筋虚血再灌流障害モデルにおいて、野生型マウス心臓と比較し、Toll様受容体9欠損マウス心臓では、心筋虚血再灌流後、心機能障害は改善し、心筋梗塞サイズが縮小した。さらに、再灌流後、心筋内の炎症細胞の増加なく、心臓での炎症性シグナル伝達因子の遺伝子発現、タンパク発現が抑制されることが確認でき、Toll様受容体9欠損が、再灌流後炎症性シグナル伝達を抑制することが明らかとなった。 さらに、野生型マウス心臓に対し、心筋虚血再灌流時にデオキシリボヌクレアーゼを投与することにより、壊死した心筋細胞から放出した細胞外ミトコンドリアDNAが分解され、心筋虚血再灌流後、心機能障害は改善し、心筋梗塞サイズが縮小することが確認できた。しかし、炎症性シグナル伝達因子の遺伝子発現は、抑制されなかった。これにより、細胞外ミトコンドリアDNAがToll様受容体9を介して、心筋虚血再灌流時の心機能増悪、心筋梗塞サイズを拡大するが、炎症性シグナル伝達には寄与しないことが明らかになり、心筋虚血再灌流障害を抑制するには、細胞外ミトコンドリアDNA分解だけではなく、Toll様受容体9を阻害することの重要性が明らかとなった。 これまで、心筋虚血再灌流障害においてToll様受容体9、細胞外ミトコンドリアDNAの役割は明らかになっておらず、その一端を明らかにした本研究は、今後の心不全治療開発に重要な意味をもつと考えられる。
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