まず、冷凍保存してある肺線維症患者肺と健常ドナー肺体よりミトコンドリアを単離し、Sirt3発現量の比較を遺伝子・蛋白レベルで行った。肺線維症においてSirt3発現が低下しており、肺パラフィン切片を用いた免疫染色でもそれが明らかになった。次に、Sirt3の脱アセチル化ターゲットである抗酸化遺伝子のIDH2とSOD2の発現について、肺線維症患者肺と健常ドナー肺検体でウエスタンブロッティング法を用いて検討した。肺線維症においては、Sirt3減少に伴い、抗酸化遺伝子活性の低下を認め、それにより細胞内のROS上昇が観察された。さらに、Sirt3遺伝子発現が肺血管内皮細胞のミトコンドリアDNAの傷害の程度に関与していることをsiRNAで明らかにし、Sirt3遺伝子発現が肺血管内皮細胞のEndMTに関与することを明らかにした。H2O2によりHMVEC-LにEndMTを誘導できることを代表者は以前に報告しているが、同様の刺激をsiRNAによってSirt3 をノックダウンした細胞に施し、コントロール細胞と比較した。Sirt3-siRNAによってミトコンドリアDNA損傷が増加し、 EndMT発生率も上昇した。肺線維症モデルを適用した血管内皮特異的Sirt3ノックアウトマウス及びSirt3過剰発現マウスの解析の計画を立てていたが、同マウスの樹立が困難であり断念した。代替計画として、肺線維症ヒト肺検体から作成した3D-pulmosphereを用いた検討を実施したが、invasion assayやコラーゲンアッセイでの有意差は確認できず、irreversibleな線維化モデルへの応用にはさらなる工夫を要すると考えられた。
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