本研究は、カリウム(K)によるカルシニューリン(CaN)を介したNa-Cl共輸送体(NCC)の制御機構を明らかにすることを目的としている。 申請者は高K時に、CaNが活性化してNCCが脱リン酸化(不活性化)することで、K排泄が促進されることをこれまでに報告してきたが、高K時のNCC脱リン酸化に関与するCaNの活性に不可欠なカルシウム(Ca)が、どのように輸送されてCaNを活性化しているのか、詳細な分子機序は不明であった。そこで本研究は、高K時のCaNによるNCCの脱リン酸化に、Na/Ca共輸送体からのCa輸送が関与するという仮説のもと、詳細な分子制御機構を明らかにした。 申請者は、NCX1が高K時のCa輸送に関与する可能性から、NCX1阻害薬(SEA0400)またはsiRNAノックダウンによるNCX1抑制が、高Kによる細胞内Ca増加およびNCC脱リン酸化の増加を阻害することをHEK293細胞を用いて確認した。マウスを用いた実験では、SEA0400投与によりK 誘発性のNCC脱リン酸化が阻害されることを確認した。またSEA0400の投与により、高K負荷時、尿中K 排泄が減少し、高K血症を生じることを示した。 今年度は、NCX1の発現が正常の半分に抑制されているNCX1ヘテロノックアウトマウスを用い、NCX1ヘテロノックアウトマウスでは、高K負荷時のNCCの脱リン酸化が抑制されることを確認した。 本研究全体を通して、K 負荷に応答したCaN活性化とNCC脱リン酸化およびNCC脱リン酸化によって促進される尿中K 排泄において、NCX1からのCaの細胞内移行が重要な役割を果たすことを示した。
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