禁煙による腸内細菌叢変化を当初の本研究の評価項目としていたが、禁煙外来への新型コロナウイルス感染症の影響や禁煙補助薬の出荷停止などから、禁煙前後でのサンプル収集が困難と判断した。そこで喫煙による腸内細菌叢への影響を評価する方針とし、対象集団を特定健診受診者へ変更した。 同意取得後に糞便採取を行い、16S rRNA解析によるphylumレベルでの腸内細菌叢の評価を行った。さらに胸部マルチスライスCTによる冠動脈石灰化スコアの算出を行い、腸内細菌叢と冠動脈石灰化の評価を胸部単純CTで行った。これらの618名のうち、喫煙情報を有した315名を対象に、喫煙と冠動脈石灰化の関連性において、腸内細菌叢が与える影響を検証した。なお本研究においては直近30日以内に喫煙をやめた場合を禁煙者と定義した。 現在喫煙者と非喫煙者の比較において、Firmicutes・Spirochaetes・Saccharibacteriaの3つの門で群間差を認めていた一方で、Firmicutes/Bacteroidetes比 (F/B比)は現在喫煙者で低値の傾向を認めていた。次に現在喫煙者と禁煙者の比較では、Saccharibacteriaのみが群間差を有していたが、F/B比は二群間で同等であった。さらに多変量ロジスティック回帰モデルを用いて腸内細菌による媒介効果を検証した。その結果、現在喫煙者と冠動脈石灰化の関係の25.7%が、一方で禁煙者と冠動脈石灰化の関係の4.7%が腸内細菌叢を介している可能性が分かった。 本研究では有意であった喫煙や禁煙と冠動脈石灰化との関係性が腸内細菌叢の調整で減弱化していた。タバコと冠動脈疾患の関係性は多くの先行研究で確立されているが、腸内細菌叢がこれらを媒介している可能性が本研究より示された。
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