令和二年度は、昨年度同定した心筋細胞保護因子と病的ストレス感受性合成遺伝子プロモーターを用いて、心不全治療のための合成遺伝子回路を作成した。合成遺伝子回路は3つの転写ユニットにより構成させている。さらに、合成遺伝子回路に薬物感受性転写調節因子を組み込み、薬物によるオン・スイッチ及びオフ・スイッチ回路を作成した。それぞれの合成遺伝子回路の治療効果を、HL-1心筋細胞株を用いて評価した。 まず、スイッチを組み込んでいない合成遺伝子回路をレンチウィルスベクターを用いて心筋細胞に導入し、低酸素条件下での細胞活性を評価した。その結果、3つの転写ユニットすべてを心筋細胞に導入した場合のみ、心筋細胞特異的かつ低酸素応答性に心筋細胞保護作用を示した。合成遺伝子回路の導入は、非ストレス下の細胞活性には影響は与えなかった。 次に、エリスロマイシンによるオン・スイッチ回路の治療効果を検証した。上記同様に、オン・スイッチ回路を心筋細胞に導入し、低酸素条件下での細胞活性を評価した。その結果、エリスロマイシン投与下においてのみ、遺伝子回路は低酸素に対する心筋細胞保護作用を示した。 さらに、ドキシサイクリンを用いたオフ・スイッチ回路の治療効果を検証した。上記と同様の評価を行い、ドキシサイクリン非存在下では低酸素に対する心筋細胞保護作用を示したが、ドキシサイクリン存在下ではその効果は認めなかった。 以上より、細胞実験において次世代遺伝子治療技術の有効性が明らかとなった。 次に、動物実験における治療効果の検証を試みた。そのために、まず合成遺伝子回路の挙動を明らかにするため、発光蛋白質を用いた生体イメージングの実験系の確立を目指した。AAV9を用いて遺伝子導入を行い、心筋細胞におけるシグナル検出の感度と特異度の検証を行った。現在、その最適化を行っている。
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