研究課題/領域番号 |
19K23992
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
中釜 悠 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 特任講師 (60846880)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | エネルギー代謝 / 酸素呼吸 / 嫌気的解糖 / 代謝フラックス |
研究実績の概要 |
代謝回転の早い心臓組織においては、in vivoエネルギー代謝を高精度に解析することが一切不可能であった。我々は、慶應大学医化学教室との共同研究により、独自に最適化した試薬投与方法(経路、量)、臓器固定・回収時間、代謝物抽出法を確立し、高感度な心臓メタボローム解析のプラットフォームを構築しており、解糖系やTCA回路等、マウス心臓中心代謝を高分解・高感度に記述することに成功してきた。そこでこの度、心臓特異的LDHアイソフォーム欠失マウスを樹立し、心臓機能の変化が心臓エネルギー代謝様式に規定されるという仮説のもと、表現型すなわち心臓機能と連動する代謝シグネチャの解明を試みてきた。 R1~R2年度までに (i) 薬剤負荷、(ii) トレッドミル運動試験の2つの負荷モデル下でのLDH欠失マウスの表現型解析を実施し、LDH欠失マウスの心臓機能障害による後負荷/運動への耐容能低下を示してきた。また、これら表現型の背景にある代謝シグネチャについて示唆を得るために、メタボローム解析と網羅的心臓遺伝子発現解析によるデータ取得を行った。 R3年度以降、LDH欠失マウスの心臓の後負荷/運動への耐容能低下を説明する代謝シグネチャの詳細な分析から、「過還元状態(電子の鬱滞)」が一つの特徴として描出され、またこうした代謝変化がPDH複合体のリン酸化・脱リン酸化を介し駆動されている可能性が示された。また、同年度より取り掛かった「心筋炎モデル」において、病原体との相互作用が引き起こす心臓代謝変容の全容を理解すべく、網羅的心臓遺伝子発現解析のデータ取得を行った。エンドポイントアッセイの限界を補完するために、リアルタイム代謝フラックス解析の実験系を構築した。既に健常心筋での条件最適化を終え、現在、炎症状態にある心筋(心筋炎モデル)の酸素呼吸、嫌気的解糖の活性評価を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
R2年度の前半は、新型感染症の流行により研究室への出入り制限や、実験規模の縮小、動物実験の完全休止が生じ、研究を一時停止することを余儀なくされた。しかし、同年度の後半以降、動物実験も含め、徐々に研究の再開が許可されるようになり、実験動物の交配、解析を再開する事が出来た。R2年度までの成果としては、カテコラミンおよび運動負荷状況下でのLDH欠失マウスの表現型解析を進め、心臓機能障害に起因した後負荷/運動耐容能低下を見出す事に成功した。また、同マウスへの13C安定同位体標識化合物を用いたメタボローム解析を実施し、LDH欠失マウスの心負荷耐容能低下を説明する心臓代謝物プロファイルに関するデータ取得を行った。遺伝子発現データと代謝物プロファイルの突合のために、網羅的心臓遺伝子発現解析のデータ取得を終える事ができた。 R3年度前半に入り、心臓メタボロームおよび心臓トランスクリプトームデータの詳細な統合解析から、LDH欠失マウスの代謝シグネチャが「過還元状態(電子の鬱滞)」によって特徴付けられることを見出した。この代謝変化がPDH複合体のリン酸化・脱リン酸化を介して駆動されている可能性が示された。また、同年度後半からは、この「過還元状態」がその他の代表的な心臓病態をも通底する疾患代謝の特徴であるかを検証すべく、「心筋炎モデル」の構築に取り掛かった。モデル樹立後、網羅的心臓遺伝子発現解析のデータ取得を行い、やはり今後取得するメタボロームデータと突合することにより、心筋炎における「過還元状態」の有無を評価する。また、エンドポイントアッセイの限界を補完するために、リアルタイム代謝フラックス解析の実験系を構築した。既に健常心筋での条件最適化を終え、現在、炎症状態にある心筋(心筋炎モデル)の酸素呼吸、嫌気的解糖の活性評価を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
乳酸代謝への介入が引き起こす心臓「過還元状態」、がその他の代表的な心臓病態をも通底する疾患代謝であるかを検証すべく、「心筋炎モデル」の解析を進める。リアルタイム代謝フラックス解析の強みを活かし、心筋炎における酸素呼吸/嫌気的解糖のバランス変化を高精度かつ本態的に検出する。こうした疾患代謝が、心筋炎における病原体との相互作用においてどのような生理的役割(病態促進性あるいは生体保護的)を持つか、また心筋以外の心臓構成細胞に対しどのようなインタープレイをもたらすか、に着目する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型感染症の流行により、動物実験の休止等、研究計画の遅延につながる事象が生じた。心筋炎モデルの構築・解析が、R3-4年度の実施へと持ち越された。
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