研究課題/領域番号 |
19K23993
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
安田 純平 東海大学, 医学部, 奨励研究員 (90850777)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | 心リモデリング / 臓器線維症 / 転写因子 |
研究実績の概要 |
心疾患は国内外に多くの罹患者が存在し、その治療は医療経済的にも大きな負担となっている。冠動脈閉塞や高血圧症などによって心疾患が発症・進展すると、心臓の機能的・構造的な変化(リモデリング)が起こる。心リモデリングによりコラーゲンなどの細胞外マトリックス(ECM) が過剰に沈着(線維化)すると、心収縮力の低下を招き最終的に心不全に陥る。心リモデリングの制御を標的とした新規心不全治療法の開発に向けて、様々な研究が進んでいるが、臨床応用には至っていない。心臓におけるECM産生細胞は線維芽細胞とされるが、厳密な証明はされておらず、このことが心リモデリング(心臓線維化)の治療法の開発を妨げる大きな要因となっている。そこで申請者は、「心リモデリングに関わる線維産生細胞の再検討と分子制御機構の解明」という研究テーマを立案して遂行してきた。2019年度は、所属研究室が樹立したI型コラーゲンα2鎖遺伝子(COL1A2)発現を蛍光タンパク質EGFPで検出するCOL1A2/EGFPレポーターマウス(COL/EGFP)を用いて心疾患モデルを作製し、心リモデリングにおけるECM産生細胞の再同定と、その細胞内の分子制御機構の解明を試みた。その結果、アドレナリンβ受容体の非選択的アゴニストであるイソプロテレノールによって誘導された心不全モデルマウスの心臓組織切片において、EGFPは心線維芽細胞マーカーであるVimentinと共局在していること、正常なCOL/EGFPマウスから単離・培養した心線維芽細胞はVimentin陽性かつEGFP陽性であることを明らかにした。これらのことから、心臓におけるECM産生細胞は心線維芽細胞であることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究成果を学会で発表するなど、これまで継続して実験を行い、成果をまとめてきたことから、研究は進展していると思われる。しかしながら、昨年度は心不全モデルマウスの作製条件や心線維芽細胞の初代培養の条件といった条件検討に大半の時間を費やしてきた。細胞内分子制御機構の解明に関する研究については発現プラスミドの作製といった準備段階までしか進展していないことから、やや遅れていると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
これまで申請者が行ってきたin vitro実験およびin vivo実験の結果から、心臓線維化の責任細胞は心線維芽細胞であることが確認された。しかしながら、この心線維芽細胞の細胞内分子制御機構は不明な点が多く残されている。申請者の所属研究室では、新規転写因子Tcf21が臓器横断的な線維化制御因子である可能性を提示してきた。今後は、心線維芽細胞におけるTcf21の機能および発現調節機構を解明し、Tcf21の発現制御が心臓線維化病態に及ぼす影響を検討する。具体的には、①正常マウスと心不全モデルマウスの心線維芽細胞の形質変化とTcf21の発現動態の比較・解析、②心線維芽細胞へのTcf21の発現誘導あるいは発現抑制の影響、③転写因子Tcf3との相互作用がTcf21の機能制御に及ぼす影響、の解明に取り組む。さらに、上記3点の結果に基づいて、④Tcf3との相互作用を修飾する合成ペプチドによるTcf21機能制御が心臓線維化進展に及ぼす効果を検証することで、Tcf21を標的とした新たな心不全治療法の開発可能性を提示していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)研究初年度においては、心不全モデルマウスの作製条件や心線維芽細胞の初代培養条件などの条件検討といった予備実験に多くの時間を費やした。その予備実験に使用した実験動物および実験用の試薬・消耗品類は、本研究予算の交付決定に先駆けて獲得していた学内研究費を使用して購入したために、予定経費の全額を使用するに至らなかった。 (使用計画)次年度からは、初代培養心線維芽細胞を用いた細胞内分子制御機構の解明に向けた検討が本格化するため、上述したマウスの購入・飼育経費や細胞培養関連試薬・消耗品の購入が予定されている。
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