心疾患の発症・進展に伴うコラーゲンの過剰沈着(線維化)は心収縮力低下を招き、最終的に心不全に陥る。申請者の所属研究室は最近、活性化星細胞に転写因子Tcf21遺伝子を導入するとマウス肝線維症が抑制されることを明らかにした。Tcf21は胎仔期の心臓や腎臓の器官形成に関わることや、肺や腎臓などの線維化病態で発現が減少するという報告から、Tcf21が心臓線維化においても重要な役割を果たすことが推測される。しかし、心臓線維化におけるTcf21の機能は全く解明されていない。本研究は、心臓線維化におけるECM産生細胞内でのTcf21の機能解明およびTcf21発現制御が心臓線維化病態に及ぼす影響の検討とした。 I型コラーゲンα2鎖遺伝子発現を蛍光タンパク質EGFPで検出するレポーターマウスを用いて、βアドレナリン受容体作動薬イソプロテレノール誘導性心不全モデルを作製した。EGFP陽性細胞は心線維芽細胞マーカーVimentinおよび活性化線維芽細胞マーカーαSMAと共局在していたことから、心臓のコラーゲン産生細胞は活性化心線維芽細胞であることを確認した。次にイソプロテレノール投与後1~4週間のマウス心臓組織におけるTcf21遺伝子発現は投与1週間後に急増しており、次第に減少していた。一方で、イソプロテレノール投与期間が延びるほど心臓線維化は進行していた。このことから、心臓線維化に伴ってTcf21発現が減少する可能性が示唆された。 本研究により、心臓におけるECM産生細胞が心線維芽細胞であることが証明されたが、心線維芽細胞におけるTcf21の機能を完全に解明するには至らなかった。今後、イソプロテレノール誘導性心不全モデルマウスにおけるTcf21過剰発現が心臓線維化病態に及ぼす影響を検討することで、Tcf21を標的とした新規心不全治療法の開発が期待される。
|