本研究では、食事の変化により便中および体内の代謝産物や脂肪酸のプロファイルがどう変化し全身性の糖代謝に影響するかをGC/MSを用いて網羅的に評価した。イヌリン自体のカロリーを加味し、総カロリーと脂質量、ショ糖量を同等にペアフィーディングしたマルトデキストリン含有高脂肪高ショ糖食と水溶性食物繊維イヌリン含有高脂肪高ショ糖食をC57B/6Jマウスに12週間給餌し、糖代謝および各臓器・血液・便を比較検討した。発酵性食物繊維であるイヌリン摂取群では、体重に有意差は認めなかったが内臓脂肪量/皮下脂肪量比の有意な減少と糖代謝の改善が認められた。また、GC/MSによる各臓器のリピドミクスを行ったところ、内臓脂肪中の中鎖脂肪酸のラウリン酸、ミリスチン酸は両群で差はなかったが、長鎖脂肪酸のパルミチン酸・オレイン酸・リノール酸・αリノレン酸・EPAはイヌリン群で減少し、DHAは増加していた。メタボロミクス(GC/MS)によるアミノ酸・有機酸・短鎖脂肪酸分析をおこなったところ、イヌリン群では便中の短鎖脂肪酸とコハク酸の増加を認めた。また、イヌリン群において内臓脂肪における炎症性細胞の抗炎症性変化とUCP1発現の増加も認めた。このように水溶性食物繊維の発酵による代謝産物が内臓脂肪の代謝を変化させ、糖代謝改善に寄与することを明らかにした。また、高脂肪高ショ糖食と、総カロリーと脂質量が同等でショ糖量が少ないマルトデキストリン含有食を摂取したマウスを比較したところ、マルトデキストリン食で脂肪肝の明らかな改善を認め全身性糖代謝は改善した。リピドミクスでは肝臓におけるステアリン酸以外の脂肪酸全体の減少を認めた。便中の代謝産物に明らかな差は認めなかった。このように発酵性食物繊維やショ糖摂取による便中代謝産物、肝臓・内臓脂肪の脂質代謝と全身性糖代謝の変化を明らかにした。
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