脊髄X層は中心管周囲の灰白質として知られているが、その機能はほとんど解明されていない。しかしX層には下行性抑制系のノルアドレナリン (NA)作動性ニューロンが投射しNAが最も多く分布しているため、X層が痛覚伝導路の一つとして痛みの伝達に関与している可能性がある。本研究は、慢性疼痛として炎症性疼痛モデル (CFA)を用い、X層におけるNAの反応を電気生理学実験により解析し、X層の機能について検討した。 電気生理学実験は脊髄スライス標本のX層からin vitroパッチクランプ記録を用い、微小興奮性シナプス後電流 (mEPSCs)と微小抑制性シナプス後電流 (mIPSCs)を記録し、NA (20 μM)に対する反応を検討した。その結果、mEPSCsは NAの投与を行ってもoutwardを認めた以外は変化を認めなかった。一方、mIPSCsはNAの投与により、naiveラット、CFAラットいずれもoutwardを認め、頻度も有意に増加した。このNAによるmIPSCsの頻度の増加作用はα1A 受容体拮抗薬で拮抗され、outwardはα2受容体拮抗薬で拮抗された。これらの結果から、脊髄X層において、NAは抑制性ニューロンのシナプス前終末に存在するα1A 受容体を活性化することでNAの放出を促進する、および直接シナプス後膜に存在するα2受容体を活性化し膜の過分極を生じることで、炎症性疼痛に対し鎮痛効果を発揮している可能性が示唆された。
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