研究実績の概要 |
肺移植後の虚血再灌流肺障害の予防・治療は、肺移植後の成績向上のために必須である。近年同定された、Arachidonic Acid、Eicosapentaenoic Acid、Docosahexaenoic acidから生成され抗炎症作用を有する脂質メディエーター(Specialized pro-resolving mediator; SPM)は、種々の疾患モデルで過度な炎症による臓器障害を抑制すると報告されている。肺移植における虚血再灌流肺障害への応用可能性を探索するため、小動物の虚血再灌流肺障害モデルにおいて検討を行い以下の結果を得た。ラットの肺門を一定時間クランプして換気血流を遮断したのちにクランプを開放、換気血流を再開して温虚血再灌流肺障害を生じさせるラット肺門クランプモデルにおいて、障害肺からcDNAを抽出し、これを用いてRT-qPCRを行い、炎症性・抗炎症性脂質メディエーターを産生する酵素(COX, 5-LOX, 15-LOXなど)やSPMの受容体(FPR2、GPR32、GPR18、CMLKR1など)の発現を検討した。SPMの受容体の肺内の発現と局在を障害肺の免疫染色で確認した。この検討から、種々のSPMの中から虚血再灌流肺障害に効果の見込めるSPMを推定し、実際にラット肺門クランプモデルにおいてラットに経静脈的に投与した。気道内圧や肺コンプライアンス、酸素化能などの障害肺の生理学的評価、肺組織の病理学的評価、肺組織ライセートや血漿中の炎症性サイトカインの測定を行うと、SPM投与群で、有意に生理学的指標や組織所見の改善、炎症性サイトカインの減少を認め、温虚血再灌流肺障害に対する保護効果を確認した。 また、肺移植後の虚血再灌流障害に対するSPMの効果を検討するため、ラット肺移植モデルの確立と実験条件の最適化を行った。
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