研究実績の概要 |
虚血再灌流障害 (IRI)は移植に伴うグラフト保存とその後の血流再開によってもたらされるグラフト障害であり、early allograft dysfunctionや拒絶にも影響するため、IRIの予防は移植医療における重要な課題である。近年、レシピエントの腸内細菌改変が肝IRIを緩和しうる可能性が報告されているが、肝機能低下や腎機能低下を伴うことの多い肝移植レシピエントへの「吸収性」抗生剤投与は臓器障害助長や耐性菌出現などの観点から忍容性が低いと思われる。リファキシミン(RFX)は肝性脳症の治療・予防に対して使用されている「非吸収性」の抗生剤であり、比較的安全に長期間投与が可能であるが、RFX が肝移植におけるIRIを緩和しうるかは解明されていない。マウスのアロ肝移植モデルを使用して、RFXによりレシピエントの腸内細菌を改変することが肝IRIを軽減しうるかをまず検討した。 C57BL/6マウスから採取した肝グラフトを18時間の冷保存の後にBALB/cマウスに移植した。肝移植前のレシピエントマウスに7日間RFXを投与した群(RFX群)では、対照群(Con群)に比べて、移植6時間後の肝逸脱酵素(AST/ALT)の値が低く、組織学的IRIスコア(Suzuki’s score)が低いことが分かった。免疫染色の結果、RFX群ではCon群に比べて、好中球(Ly6G)とマクロファージ(CD11b)の肝内への集積が緩和されており、炎症性サイトカインの発現(CXCL1, CXCL2, CXCL10, MCP1)も軽減されていることが分かった(RT-PCR)。 また、京都大学において生体肝移植を受けた成人レシピエント59症例(2017/9月~2020年3月)を後方視的に解析した結果、RFXの投与を術前に受けたレシピエントは対照群に比べて移植後の拒絶の頻度が低いことが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
令和元年度の成果をもとに、RFXのレシピエントへの前投与が肝IRIを緩和しえた機序について更なる解析を行う。具体的には肝組織におけるオートファジー関連因子(LC3B, mTORC, p62, ATG5, ATG7)、ERストレス関連因子(CHOP, ATF4, ATF6, IRE1, PERK, XBP1)の発現をWestern blots, RT-PCR, 免疫染色にて評価する。 同時に、ヒトの肝移植症例から得られたサンプルの解析も行う。
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