研究課題/領域番号 |
19K24016
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
水内 祐介 九州大学, 大学病院, 助教 (20849088)
|
研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
|
キーワード | 大腸癌 / シングルセル解析 / 微小環境 / heterogeneity |
研究実績の概要 |
近年、大腸癌に対する効果的な薬物療法が相次いで創出され生存率は改善しつつあるが、2017年の大腸癌死亡者数は第2位と依然予後不良な疾患である。その原因として、癌細胞だけでなく微小環境を形成する間質細胞にも観察される高度な不均一性、すなわちheterogeneityが挙げられる。本研究の目的は、シングルセル解析技術を用いて大腸癌の機能的なheterogeneityを明らかにすることで、治療抵抗性に関わるこれまで同定されていない機能を有する細胞集団を特定することである。 本年度は複数の種類の固形がんの手術標本を対象にシングルセルRNAライブラリー作成を行い、NGSで解析した。NGS解析後のデータは、Rパッケージ Seuratを用いて単一細胞由来のRNA発現からその細胞集団の特徴や機能に着目し解析を行っている。当初は、接着が強固な上皮組織を生細胞の状態で単一細胞化することに難渋したが、物理的、化学的処理の各種組み合わせの変更を繰り返し、現在では十分量の単一細胞懸濁液を安定して作成することに成功しており、胃癌、食道癌など固形がん20症例を超えるライブラリー作成を行ってきた。手技が安定してからは、腫瘍部に加え正常粘膜部や所属リンパ節も同時に採取しライブラリー作成を行っている。 大腸に関しては、潰瘍性大腸炎の一部癌化症例に対する大腸全摘標本より腫瘍部、炎症粘膜部、正常粘膜部を採取し単一細胞懸濁液作成、ライブラリー作成を試みたが、いずれも単一細胞化の時点で細胞数が極めて少なく、ライブラリー作成の途中産物であるcDNA量も規定量に達さず、NGS解析は断念した。手術検体摘出までの虚血時間が極めて長い大腸全摘術だったことや炎症で組織の大部分が死細胞となっていた可能性、単一細胞化のプロトコルが適していなかった可能性などが主な原因として挙げられ、今後各種改善を要する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
他の固形がんである胃癌、食道癌については、手術切除標本をもとに十分量の単細胞懸濁液を作成すること、ライブラリー作成を行うこと、それぞれにおいて安定した結果を得ることができるようになり、それらをもとにNGSで得られたデータの解析についても習熟してきている。大腸癌については上述の通り、潰瘍性大腸炎癌化症例では細胞数、cDNA量ともに十分量は得られなかった。原因としては術式にかかる組織の虚血時間や細胞状態、単一細胞化のプロトコルが挙げられ、本解析手法を行うのに適切な手術症例の選定や、胃癌、食道癌で採用している単一細胞懸濁液作成方法の大腸組織への最適化を要すると考えられる。しかしながら、単一細胞懸濁液作成、ライブラリー作成が計画的に行えて安定してデータが得られるようになれば、解析手法自体は胃癌、食道癌でのものが適応可能と考えられ、スムーズに解析を進め得ると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
まずは各種術式や条件の大腸癌手術標本より組織を採取し、単一細胞化に耐えうる適切な術式の選定を検討する。同時に、大腸組織に最も適する単一細胞懸濁液作成プロトコルを確立する。 上記が確立でき次第随時ライブラリー作成を開始し、胃癌や食道癌で得られた手法や知見を活かしてデータ解析を行う。 炎症性腸疾患が実験、解析に耐えうるようであれば、炎症性腸疾患の癌化症例からは経時的癌化プロセスの知見を得られうると考えられるため、積極的に組織採取を行い解析して、癌微小環境のheterogeneityについてさらに追求する。 解析にて治療抵抗性や癌免疫寛容などに関わる特定の機能を持つ細胞集団が同定できれば、同定した細胞集団と癌細胞との相互作用や、細胞集団が癌細胞の遊走・浸潤能をはじめとする浸潤、転移に及ぼす影響をin vitro, in vivo実験を行いてさらに解明する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
今年度はNGS解析費用などほぼ予定通り使用できた。若干残った未使用金は次年度と合算してin vitro,in vivo実験のために使用する予定である。
|