研究課題
小児外科疾患である多発小腸閉鎖や中腸軸捻転、壊死性腸炎等により小腸大量切除を余儀なくされた短腸症候群(SBS)患児らは、長期絶食下での完全静脈栄養(TPN)による術後管理が必要となる。TPN管理下におかれた患児では腸管不全関連肝障害(IFALD)を発症すると、予後に多大な影響を及ぼす。IFALDは、TPN管理下での人工栄養や感染など複合的な原因で発症すると考えられているがその原因はいまだ明らかではない。最近では生体内でのフリーラジカルによる組織障害が原因の一つとして報告されている。近年医療分野において水素を新たな抗酸化物質として治療に用いる研究が進んでおり、生体内でのフリーラジカルによる組織障害を軽減することが知られている。当研究は、TPN下での短腸症候群におけるIFALDの発症機序を明らかにするとともに、入手が容易でかつ安価な水素ガスを用いたハイドロゲン・ナノバブルを作成し、IFALDに対して抗酸化作用を導入した画期的な予防法・治療法を開発することを目的とする。IFALDが進行し、不可逆的肝不全を来たした場合には肝臓・小腸移植および多臓器移植によってのみ救命可能である。当科の臨床経験でも、SBS患児においてIFALDを発症した場合の累積生存率は有意に低下している。SBS患児の長期生存のためにはIFALDの発症予防と治療法の確立は最重要課題である。2007年以降、心筋、肝、精巣など、様々な虚血モデル動物による実験において、水素ガスおよび過酸化水素投与が組織障害を防ぐことが報告されてきた。水素を投与すると、水素そのものがフリーラジカルであるOH-と結合しH2OとH+になることで抗酸化作用を生じると考えられている。我々の有しているIFALDモデルラットを用いて、ハイドロゲン・ナノバブルのIFALDに対する抗酸化作用を検討することによって、新たなSBS患者の管理方法を確立する。
2: おおむね順調に進展している
手技の確立にはやや時間を要したものの、短腸症候群モデルラットの作成を行い、一定数のサンプルを得られた。水素を投与するために、まずは水素の性質を検討し溶存する方法を検討した。まずは当施設内に既に存在している水素輸液生成装置を使用し、水素が混和された輸液製剤を作成した。水素が溶存された輸液製剤を作成することは容易であった。一方で、基本的には水に溶けにくい性質を持つ水素ガスは、溶存水素濃度が低下し易く、溶存水素濃度を維持する方法の検討が必要であった。また、短腸症候群モデルラットに確実に投与する方法の検討も必要である。
溶存水素濃度維持のための容器の開発、投与方法の検討を画策していく。短腸症候群モデルラットを固定し確実に水素を投与する方法を検討する。得られたサンプルの評価項目を見直す。
本年は、生体に水素を投与する方法を検討する前段階として、まずは水素の性質を把握し高濃度で水に溶存する方法を検討した。当施設内に既に存在している水素輸液生成装置を使用し、水素が混和された輸液製剤を作成した。当実験で想定していた輸液製剤よりも安価な生理食塩液を用いて、また同装置を用いて共同研究を行う企業の協力もあり、当初の予想とは異なった安価で水素が溶存された輸液製剤を生成するに留まったため、次年度使用額が生じた。基本的には水に溶けにくい性質を持つ水素ガスは、溶存水素濃度が低下し易く、溶存水素濃度を維持する方法の検討が必要で、また、短腸症候群モデルラットに確実に投与する方法の検討も必要である。次年度使用額を用いて、溶存水素濃度を低下させないシリンジの開発や、より高濃度の水素ガスを溶存させる輸液バッグの開発に着手する。
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Journal of Laparoendoscopic & Advanced Surgical Techniques
巻: 29 ページ: 1252~1258
10.1089/lap.2019.0212