研究課題/領域番号 |
19K24018
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研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
及能 大輔 札幌医科大学, 医学部, 助教 (70563485)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2022-03-31
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キーワード | 肝臓 / 術中ナビゲーション技術 / 血管内皮細胞 / 近赤外蛍光 |
研究実績の概要 |
肝腫瘍に対する肝臓切除術に際して、その解剖学的構造を把握したうえで手術を行う必要があるため、手術中にICGを利用した近赤外蛍光発色技術が臨床でも使用されている。そのなかで、ICGが全身を循環することでコントラストが不明瞭化する問題点がある。そこで、ICGとは異なる機序による肝臓発色技術の開発を目的として、肝類洞内皮細胞の表面受容体を標的として、特定の肝区域を蛍光発色させる方法の有効性を検証した。 肝の大部分の領域に存在する類洞に着目し、これまでに肝組織の蛍光発色のために肝の類洞(血管)内皮細胞を標的として、その表面に結合する抗体に近赤外吸収色素を結合させて、類洞内皮細胞の蛍光発色を介して、肝組織を発色させて視認する方法で検証を行った。 血管内皮細胞のVEGFR2を標的とした抗体に、近赤外蛍光色素を標識して実験を行った。肝の類洞内皮細胞のVEGFR2の発現を、免疫染色を行い調べた。次に、マウスとブタの摘出肝の血管より蛍光標識抗体を投与し、抗体結合率、投与区域と背景肝の発色比を調べた。マウス、ブタ、ヒトの肝組織で、VEGFR2は類洞内皮細胞に95%以上、肝細胞癌、転移性肝癌内微小血管ではそれぞれ92.9%、91.0%に発現していた。摘出肝への標識抗体投与により投与区域は明瞭に蛍光発色し、対背景肝の発色強度はマウス、ブタでそれぞれ3.5倍、17.2倍であった。類洞内皮細胞への抗体結合率は、非特異的IgG抗体の結合能より有意に高値であった。血管内皮細胞に対する蛍光標識抗体により、肝類洞を介して肝組織の発色が可能であり、肝切除術に関するナビゲーション技術への発展が可能であると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
麻酔下のブタを用いたin vivoの実験を予定していたが、当初予定していた動物実験施設でブタが扱えなくなってしまったこと、さらにCOVID-19の影響で診療体系や人の移動に制限がかかり、実験そのものを中止せざるを得なかったことから、実験計画の変更を余儀なくされた。
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今後の研究の推進方策 |
COVID-19の影響と動物実験施設の影響で、当初の実験計画を変更する予定である。変更の理由は、麻酔下でのブタを利用した蛍光抗体投与の実験が動物実験施設の改修や方針の影響で実施できなくなったこと、COVID-19の影響で移動そのものに制限がかかり、他施設での動物実験の実施も困難となってしまったこと、の2点である。 そのため研究の方針を一部変更し、標的とする血管内皮細胞の細胞膜上受容体の発現状況と、臨床病理学的因子・予後の関係を解析することで、腫瘍性病変を含む肝臓へ同抗体を投与した際の蛍光発色の有効性の推測や、受容体発現有無や強度の意義を解析し、肝腫瘍性病変への外科治療へ役立てる解析を行う方針とした。 具体的には、同受容体が正常肝や肝細胞癌、転移性肝癌などにおいて、どのように発現しているのかを免疫染色で評価し、さらにそれを臨床情報、病理学的所見と関連付け、解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた実験計画の変更を余儀なくされた点、COVIDの影響により学会への直接参加が全くできなかった点により次年度使用額が生じた。 本年度では、抗体の購入・作成費、免疫染色に関する実験試薬、消耗品の購入、などに使用する予定である。また、論文作成のために英文校正費、投稿費にも使用を予定している。
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