肝臓を肝細胞癌や転移性肝癌に対し切除する際に、肝臓の解剖学的構造を手術中に把握することは癌遺残の予防や十分な残肝容積の確保のために重要である。現在使用されているICGによる染色技術では、全身循環後のICGにより標識部位が不明瞭化する問題点がある。我々はICG以外の薬剤による、肝類洞内皮細胞を標的とした肝区域の蛍光発色法の有効性を検証した。 血管内皮細胞のVEGFR2を標的とした抗体(Ramucirumab)に、近赤外蛍光色素を標識して実験を行った。肝の類洞内皮細胞のVEGFR2の発現と分布をマウス、ブタ、ヒトについて免疫染色を行い調べた。次に、マウスとブタの摘出肝の血管より蛍光標識抗体を投与し、抗体結合率、投与区域と背景肝の発色比を調べた。さらに、ヒト凍結標本を用いて正常肝と肝腫瘍について、微小血管数の差を観察した。 マウス、ブタ、ヒトにはVEGRFR2が肝類洞内に広く分布していることがわかった。一方、大血管ではVEGFR2の発現はみられないことも判明した。ヒト正常肝の類洞内皮細胞ではVEGFR2は95%以上に発現しており、蛍光標識抗体により適切に標識されることを確認した。Ramucirumabはブタ、ヒト両者の肝で類洞に結合することを確認した。一方、大血管にはVEGRFR2が発現していないことがわかった。ブタの肝臓の血管内から投与するとRamucirumabは、Isotype controlのIgGに比べ5.23倍結合することが判明した。また、正常肝、肝細胞癌、転移性肝癌(膵癌)についてもその内部に類洞内皮細胞が観察され、それぞれ92.9%、91.0%にVEGFR2の発現を認めた。 これらの結果より、肝類洞にVEGFR2は広く高度に発現しており、Ramucirumabは効率に結合することが判明した。
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