イヌリン経口摂取による腸内細菌叢の変動について検証した。野生型マウス(C57BL/6)に通常食(AIN-93G)もしくはイヌリン食(AIN-93Gにイヌリン5%添加)を2週間摂取させ、新鮮便を採取した。得られたサンプルをメタゲノム解析手法により、各々の群において腸内細菌叢の比較検討を行った。通常食群に比較し、イヌリン食群においてはFirmicutes門(F)が減少し、Bacteroidetes門(B)が増加する傾向を認めた。上記2群における門脈血中の有機酸濃度測定では、通常食群に比し、イヌリン食群においてはプロピオン酸・イソ酪酸・カプロン酸濃度が有意に上昇した(N=10、p<0.05)。これら有機酸の門脈血中濃度上昇は、イヌリン2週間経口摂取による腸内細菌叢の変化によるものと考えられた。 我々は、イヌリン経口摂取群においては、肝虚血再灌流刺激後の血清中肝逸脱酵素ALT値は低下するという予備データを得ていた。今回、マウスにおける肝虚血再灌流障害モデルを通常食群およびイヌリン食群において各々作成し、肝組織抽出サンプルを用いて、RT-PCR法による各種サイトカイン・ケモカインの比較検討を行った。イヌリン食群での肝虚血再灌流刺激後の肝組織においては、IL-6・TNF-α・CXCL-2の有意な低下を認めた。また、アポトーシス(細胞死)評価として、両群より得られた肝組織のTUNEL染色を行うとイヌリン食群ではTUNEL陽性細胞の有意な減少(アポトーシスの減少)を認めた。 以上の結果より、イヌリン食群では肝虚血再灌流刺激に対する炎症抑制および細胞死抑制効果を認めた。そのメカニズムとしては、イヌリン食群における腸内細菌叢の変化および門脈血中の一部の短鎖脂肪酸濃度上昇が鍵になることが推測された。
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