研究課題/領域番号 |
19K24020
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
藤好 真人 北海道大学, 医学研究院, 客員研究員 (90844720)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | 無虚血肝移植 / 機械灌流 / 動物実験 |
研究実績の概要 |
ラットIschemia free liver transplantation (IFLT)モデルの確立:ラットIFLTモデルはHeらにより報告されたIFLTの術式をラットにおいて再現するモデルであり、これまでに成功の報告はない。我々は、門脈カニュレーションのための人工的側枝を作成する代わりに幽門静脈へのカニュレーション法を確立し、ドナー体内で22Gカテーテルを介した門脈灌流路を作成することに成功した。これを介してドナー血流の遮断より前にhypothermic oxygenated machine perfusion (HOPE)を開始し、HOPEを継続しながら体外保存、レシピエントの肝全摘、血管吻合を行い、再灌流と同時にHOPEを終了することに成功した。しかし、この術式では容易に静脈系のoutflow blockが生じ、グラフトが高度の浮腫に陥りレシピエントの生存が得られなかった。そこで、手術操作の最中も良好な静脈系のドレナージを行うことができるカテーテルを開発し、グラフト浮腫の防止に成功し、ラットIFLTにおいて生存例を得るに至った。 この術式は有効であったが、手術操作が非常に煩雑であること、灌流速度に限界があること、正確な灌流圧の測定が困難であることなどから、実験での使用にむけて改善が望ましいと判断し、門脈吻合法をカフ法から手縫いに変更して、門脈カニュレーションを幽門上静脈から脾静脈に変更することにより、機械灌流をより安定して行うことができるようになり手術操作が行いやすくなった。肝動脈灌流は大動脈に留置したカニュレーションを介して行い、吻合はレシピエントの総肝動脈とグラフトの上腸間膜動脈の間でステント法を用いて行うことによりIFLTが可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度はラットIFLTモデルの確立を行った。動物実験系の構築には当初の予定より時間を要したが、当研究で用いるラットモデルはこれまでに成功例の無いものであり、極めて困難なものである。我々はすでに成功例を得ており、研究で使用する上での安定性を得るための改善を進めている。このモデル構築は当研究において最も重要なステップであり、困難も予想されていたため、予定よりやや遅れてはいるものの、2020年度に遅れを取り戻すことは可能と考えている。2019年度には予定されていた体外局所療法および体外化学療法の条件検討を行うことができなかったため、2019年度分の研究費の一部を次年度使用する必要が生じた。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度に確立した動物実験系を用いて、2020年度は以下の5項目の検討を行う。 1)体外肝切除およびアブレーション法の検討: 灌流装置上での肝切除およびアブレーションの安全性を検討する。ラットIFOTモデルにおいて摘出後のグラフトを部分切除または焼灼する。in situで同等の切除、焼灼をした非移植モデルを対照群とする。術後生存、血液生化学検査により効果を判定する。 2)体外化学療法の検討:健常ラットに抗癌剤(5FU、オキサリプラチン、イリノテカン、タキサン)を投与し、LD50を求め、ラットIFOTモデルでLD50と腫瘍縮小効果のEC50の範囲の高濃度で機械灌流し、移植後の生存の確認する。 3)ラット肝転移モデルの作成と治療効果の検討: 大腸癌細胞株(RCN-9)、膵臓癌細胞株(DSL-6A)にTd-tomatoあるいはZs-Green, G-Lucを導入し 、脾注あるいは門脈投与によりSyngeneic肝転移モデルを作成する。4週後に蛍光イメージングとG-Luc活性、MRIにより腫瘍を評価する(治療前)。担癌ドナー肝のIFOTモデルで体外化学療法を行い、移植前と移植後2, 4週間の腫瘍の縮小効果を同様に評価する。 4)siRNAの体外導入治療の検討: IFOTモデルにおいて、灌流液を介したlipofection法により、細胞接着分子(カドヘリン,インテグリン、セレクチン類)を標 的とするsiRNAを体外導入し、類洞内皮細胞の免疫染色およびPCRによりノックダウン効果を確認後、レシピエントへの癌細胞の脾注により治療効果の効果を判定する。 5) エネルギー代謝の評価: 灌流時の肝臓のviabilityと、癌組織の悪性度の両面からエネルギー代謝の評価は重要である。上記検討で治療効果が示された場合には、解糖と酸化的リン酸化のfluxをNMRによるメタボローム解析により評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度には動物実験系の構築に当初の予定以上の時間を要した。当研究の動物実験系はこれまでに報告がなく、技術的難易度は極めて高いものであることや動物実験系のクオリティが当実験の成果を大きく左右するものであることから、動物実験系の構築に十分な時間をかけることは妥当であったと考える。それにより、2019年度中に行う予定であり、研究経費の大きな割合を占めていた体外局所療法および体外化学療法の条件検討まで研究を進めることができなかったため、2019年度の研究費に次年度使用額が生じた。2020年度は2019年度の助成金を用いた体外化学療法の条件検討と2020年度の助成金を用いたラット肝転移モデルの作成と治療効果の検討、siRNAの体外導入治療の検討およびエネルギー代謝の評価を行う予定である。2019年度の研究成果は2020年度の研究の遂行に大きく貢献するものであり、当研究の完遂は可能であると考えている。
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