アルツハイマー病患者の剖検例で、嗅裂を観察した。高齢者の嗅上皮は変性して嗅細胞数は少なかった。また、免疫染色でアルツハイマー病に特異的なバイオマーカーを染色したが、ほとんど染色は認められなかった。若年性アルツハイマー型認知症患者1例の組織をHE染色で観察すると、典型的な嗅上皮構造が観察された。この症例では、左右対称性に、嗅上皮内に繊維状の物質の蓄積が観察され、同部位の嗅神経細胞数は減少していた。この症例の嗅裂、嗅球、海馬、側頭葉のアミロイドβ42とリン酸化タウの免疫染色を行った。その結果、嗅球、海馬、側頭葉にはアミロイドβ42で染色される老人斑が確認できた。嗅裂には老人斑は認めなかったが、支持細胞の細胞質に薄く均一にアミロイドβ42が染色された。一方、嗅裂、嗅球、海馬、側頭葉すべてにリン酸化タウで染色される神経原線維変化を認めた。嗅上皮内に蓄積した繊維状の部分にリン酸化タウが強く染色され、同部位の嗅神経細胞が減少していることから、嗅神経細胞の神経原線維変化であると考えられた。 また、非認知症患者の鼻腔洗浄液中の総タウとリン酸化タウの濃度を測定した。総タウは神経変性の指標となる蛋白で、すべての鼻腔洗浄液中に総タウが存在した。他の体液中の総タウ濃度と比べて、比較的高濃度で検出された。総タウ濃度と年齢の間に若干の相関を認めたが有意なものではなかった。神経原線維変化の指標となるリン酸化タウはほとんど検出されず検出下限レベルの濃度であった。 若年性アルツハイマー病患者の嗅上皮で観察されたバイオマーカーの所見、非認知症患者の鼻腔洗浄液のバイオマーカー測定結果より、鼻腔検体で非侵襲的にアルツハイマー病の病態をとらえることが可能であることが示唆された。
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