研究課題/領域番号 |
19K24038
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
三枝 智香 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 特任助教 (00280800)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2022-03-31
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キーワード | ヒトiPS細胞 / 内耳血管条 / 辺縁細胞 / 上皮細胞 / バリア機能 / Kチャネル / イオン輸送 |
研究実績の概要 |
昨年度に続き、ヒトiPS細胞から血管条辺縁細胞を分化誘導する系の検討を行なった。 血管条辺縁細胞のバリア機能に重要なタイトジャンクションタンパク質である Claudin-1, ZO-1, Occludinや、方向性を持ったイオン輸送に重要なNaK ATPaseやNKCC1の発現はこれまでもヒトiPS細胞由来辺縁細胞(iMC)において認められていたが、Kチャネルタンパク質についてはalpha subunitのKCNQ1のみ発現が認められ、beta subunitである KCNE1の発現が認められないことが大きな問題であった。iMCにおいてKCNE1の発現が認められない原因は、iMCがまだ未熟な辺縁細胞様細胞であることだと考え、今年度はiMCをより成熟させるために昨年度行なっていた培養系よりも長期間培養することを試みた。iPS細胞培養用CO2インキュベーター内に振盪培養器を新たに導入し,3Dで長期間培養する際にも細胞塊内部まで酸素が供給されるように培養環境を設定した。本培養条件下でこれまでよりも長期間に渡り3Dで培養を行った結果、昨年度まで発現の認められなかったKCNE1 mRNAの発現をqPCRで認めることができるようになった。さらに免疫染色により、KCNE1タンパク質が iMCのapical membraneにおいて KCNQ1と共局在していることも確認できた。 apical membran上の Kチャネルによる細胞内のKイオンの細胞外への放出は蝸牛内ホメオスタシスを維持する上で辺縁細胞の最も重要な機能の一つであり、今年度の進捗により、より内在辺縁細胞に近い細胞をヒトiPS細胞から分化誘導できるようになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、昨年度に続きヒトiPS細胞から辺縁細胞(iMC)への分化誘導系の検討を行った。血管条辺縁細胞のバリア機能に重要なタイトジャンクションタンパク質である Claudin-1, ZO-1, Occludinや、方向性を持ったイオン輸送に重要なNaK ATPase、NKCC1、Kチャネルタンパク質であるalpha subunitの KCNQ1に加えて、Kチャネルbeta subunitである KCNE1の発現をiMCにおいて認めることができるようになった。これらはいずれも辺縁細胞が蝸牛のホメオスタシス(イオン濃度勾配維持)に寄与する上で非常に重要なタンパク質であり、ようやくiMCの機能解析を行う段階に到達できたと考える。 また2D分化誘導系の検討も行なった。ヒトメラノサイトをフィーダー細胞として用いることでiMCの接着能を高めることができ、2D培養系においても辺縁細胞マーカーの発現を認めることができた。2D培養系で辺縁細胞の分化誘導ができるようになったことは機能解析を行う上で大きな進捗である。
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今後の研究の推進方策 |
ヒトiPS細胞由来辺縁細胞(iMC)が内在辺縁細胞と同様のバリア機能・イオン輸送機能・ポンプ機能を持つかどうかを解析することが現時点で最重要課題であると考えている。 そこでまず「transwell filter上に播種したiMC間にはタイトジャンクションによりバリアが形成されている」という仮説を検証する実験を行う。仮説が正しければ、apical側に添加したFITC-Dextranはbasal側に移動しないが、細胞をEDTA処理しタイトジャンクションを破壊することでFITC-Dextranが apicalから basalに移動するようになる。basal側の wellに漏れ出す FITCの蛍光強度がEDTA処理の有無によりどの様に変化するかを解析することで、iMCのバリア機能を評価する予定である。同様にtranswell filter上に播種したiMCを用いて、 Ussing chamberによるNaK ATPaseの機能解析を行う。 NaK ATPse阻害剤であるウアバイン存在下と非存在下での比較を行うことで、iMCが機能的なNaK ATPaseを発現していることを証明したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスにより研究室での実験を自粛せざるを得ない状況が続き、また研究用消耗品や試薬が入手困難になったため、今年度行う予定であった研究を次年度に持ち越した。
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