研究課題
PGC-1αとheterodimerを形成する核内受容体として知られるPPARγやPPARβ/δに対するantagonistの子宮内膜症間質細胞へ与える影響を評価した。子宮内膜間質細胞の増殖は促進し炎症性サイトカインの発現も増加することが確認され、子宮内膜症の病態促進を示唆する結果であった。これらより子宮内膜症組織においてRXRは、上記の核内受容体とheterodimerを形成するのではなくhomodimeric receptorまたはmonomeric receptorとして働く可能性が考えられる。そこでまずJASPARを用いてmotif analysisを行ったところRXRのmonomerまたはmonomeric receptorのaromatase promoter領域へ結合部位が確認された。ChIP assayまたはゲルシフトアッセイを用いて検証しているところである。次にPGC-1αの調節因子についての検討を行った。子宮内膜間質細胞に自由鉄を負荷したり、低酸素や低栄養環境で培養することによってPGC-1αの発現が上昇することが確認された。さらに、これらの環境条件を通常培養条件下に戻すことによってPGC-1αの発現も低下することが確認された。さらに子宮内膜間質細胞におけるPGC-1αの代謝への影響を明らかにするためmetabolome analysisを行ったところPGC-1αは子宮内膜間質細胞においてTCAサイクルや糖新生に影響を及ぼしている可能性が示唆された。マウスモデルを用いた核内受容体作動薬の治療効果の検討ではTNF-α投与により腹水中のPGC-1αは上昇することが確認され、またRXR antagonistであるHX531の腹腔内投与により子宮内膜症様組織の個数は減少することが確認された。さらに様々な核内受容体作動薬の作用についても検討しているところである。
2: おおむね順調に進展している
子宮内膜間質細胞においてRXRはheterodimerを形成するのではなく、単量体やhomomericに働いている可能性が考えられ、これらについてはChIPやゲルシフトアッセイで確認中である。われわれはPGC-1αは子宮内膜症においてはvicious loopを形成するmaster geneであると考えており、細胞内の代謝やエネルギー産生に影響を及ぼしている可能性がある。正常子宮内膜間質細胞と子宮内膜症間質細胞とを比較したmetabolome解析ではPGC-1αの強発現による様々な代謝経路への影響がわかる結果が得られた。さらにPGC-1αの発現調節因子としては環境因子である低酸素や低栄養が影響を与えることが明らかとなった。これらはPGC-1αそれ自身が代謝やエネルギー産生に影響を与えることと相まって非常にユニークな結果ではないかと考えている。子宮内膜症モデルマウスを用いた実験においてもある程度の治療効果を示す結果が得られており、概ね順調に進んでいると考えている。
PGC-1αと共役する核内受容体の同定においては多くの候補がある中で事前に対象を絞り、現在はChIPアッセイまたはゲルシフトアッセイをすすめて検証しているところである。同定された受容体に対する作動薬を負荷し、それらによる遺伝子発現の変化や増殖への影響などを詳細に検討することで新たな治療戦略の基盤作りができると考えている。PGC-1αの代謝やエネルギー産生への影響については、影響が示唆された代謝産物の発現を調節する酵素の働きについても検討しているところである。これらの結果からはPGC-1αそのものを調節する因子(低酸素、低栄養等)への理解に繋がるのではないかと期待している。子宮内膜症モデルマウスの検討ではHX531投与によるマウス個体への影響についての検討が必要である。HX531は抗糖尿病作用を示すといわれており、その投与による血糖値や糖代謝への影響、脂肪組織量や体重の変化について検討予定である。
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