研究課題
本研究は、外生殖器の性差形成過程をモデルとしてcollaborating transcription factorによるエピゲノム制御を介したアンドロゲン受容体(AR)依存性の普遍的遺伝子発現制御の解明を目的としている。これまでに、AR標的遺伝子であるMafBの発現がGCリッチ領域に結合する転写因子によるエピゲノム制御を介して調節されることを見出してきた。具体的には、ARのMafB発現を制御するエンハンサー領域において活性化ヒストンマークのH3K27ac及びH3K4me1がenrichしており、さらに、阻害剤を用いた実験からGCリッチ結合転写因子がH3K27のアセチル化を特異的に制御している可能性を明らかにした。MafBの発現制御に加えて、AR標的遺伝子であるFkbp5も同様に上記の転写因子によるH3K27acを介して発現制御を受けていることを明らかにした。さらに、H3K27ac、H3K4me1及びGCリッチ結合転写因子のChIP-seqを行いゲノムワイドな解析結果を得た。その解析結果から、AR結合領域においてGCリッチ結合転写因子とH3K27acに高い正の相関性があることを明らかとした。さらに、Arノックアウトマウスの外生殖器を用いてH3K27Ac、H3K4me1のenrichment解析を行った結果、ArノックアウトマウスにおいてもMafB及びFkbp5のエンハンサー領域に活性化ヒストンマークがenrichしていた。これらの結果は、性差形成過程におけるAR非依存性のcollaborating transcription factorによるエピゲノム制御の重要性を示唆するものである。
2: おおむね順調に進展している
R1年度では、マウス胎仔組織による次世代シーケンサーを用いた先駆的な研究結果から、性差形成過程における新たなAR標的遺伝子群を同定することができた。さらに、ARによる発現制御を受けるそれら遺伝子群のいくつかは、我々の見出したGCリッチ結合転写因子の機能を阻害することにより発現抑制されることを明らかにした。また、アンドロゲンの標的遺伝子発現制御におけるGCリッチ結合転写因子の重要性を明らかとするべく、CRISPR-Cas9システムを用いてMafBの候補エンハンサー領域におけるGCリッチ結合転写因子の結合サイトを変異させたマウスを作製した。現在、順調に産仔を得ることができ、MafBの発現解析及び表現型解析を行っている。さらに、MafB+/-マウスとのcompoundマウスの作製にも取り掛かっている。
RNA-seqなどの次世代シーケンサーを用いて得られた新たなAR標的遺伝子に関して雌雄で発現量に差があることを見出している状況であるが、詳細な発現領域・パターンの同定には至っていない。このことを明らかにするべく、mRNAの発現をin situ hybridization法により同定する。また、GCリッチ結合転写因子の機能阻害によりARによるこれら遺伝子発現が抑制されるが、MafBやFkbp5などと同様に活性化ヒストンマークの抑制に起因したメカニズムかは明らかになっていない。この点に関しても、阻害剤と組織培養実験系を駆使し、GCリッチ結合転写因子の機能抑制が活性化ヒストンマークのenrichment状態に与える影響を評価する。また、CRISPR-Cas9システムにより作製された変異マウスの表現型及びMafB遺伝子発現量を評価することで新たに見出したアンドロゲン依存性の発現制御におけるcollaborating transcription factorの重要性を明らかとする。
次年度繰越金及び助成金を用いて、本研究課題の成果を論文発表をする為。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)
Int. J. Mol. Sci.
巻: 21 (1) ページ: 58-58
10.3390/ijms21010058