研究課題
バレット食道は胆汁や胃酸などの逆流による刺激を契機に食道の粘膜上皮が扁平上皮から胃型の円柱上皮に置き換わった状態であり、腺癌の発生母地として知られる。近年、食道-胃接合部には、食道重層扁平上皮細胞の供給源となる基底細胞や、胃腺底部に存在する幹細胞とは異なる形質を有した“胚性上皮細胞”が存在することが明らかとなり、この“胚性上皮細胞”がバレット食道の起源となることがマウスモデルにより示されている。初年度はヒト食道腺癌組織を用いた免疫組織学的検討を行い、接合部の粘膜細胞の一部にグルタチオンS-転移酵素ωクラスに属するGSTO2が限局して発現することを見出した。当院で外科的切除を施行した食道腺癌27例のパラフィン切片を用いて癌部におけるGSTO2発現を検討した結果、陽性症例は48%(13/27)であった。組織型の違いを検討するため食道扁平上皮癌62例についても同様の検討を行ったところ、GSTO2陽性症例は21%(13/62)であり、食道癌においては腺癌特異的にGSTO2の発現が見られることが分かった。GSTO2は組織型における発癌過程の違いに関与している可能性がある。現在、接合部におけるGSTO2がバレット腺癌発症の起源とされる胚性上皮細胞か否かを明らかにするために、マウスで用いられている胚性上皮細胞特異的マーカー分子の発現解析を進めるとともに、CRISPR/Cas9システムを用いたGSTO2レポーターマウスを作製中である。
2: おおむね順調に進展している
ヒト組織検体において、バレット腺癌発症の起源とされる胚性上皮細胞に限局して発現する分子を同定した。さらに当該分子が腺癌発症に関与する可能性を捉えることが出来ており、研究計画は概ね順調に進展している。
日本人における食道癌の主な組織型は扁平上皮癌であり、腺癌率は低いため、手術症例のみでは症例数確保に限界がある。今後内視鏡生検検体も収集し、症例数を増やして解析を進める。本研究により見出した分子は腺癌発症過程に関与する分子と考えられる為、今後はLSBE(long segment Barrett esophagus)、肥満やピロリ菌感染等、腺癌特異的なリスク因子との関係性について解析を進める予定である。
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Carcinogenesis
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https://doi.org/10.1093/carcin/bgz189