研究課題
食道-胃接合部には、食道重層扁平上皮細胞の供給源となる基底細胞や、胃腺底部に存在する幹細胞とは異なる形質を有した“胚性上皮細胞”が存在する。この“胚性上皮細胞”が、腺癌の発生母地として知られるバレット食道の起源となることがマウスモデルにより示されているが、詳細の解明には至っていない。申請者らはヒト組織を用いた組織染色により、正常食道の基底細胞に発現するグルタチオンS-転移酵素ωクラスに属するGSTO2が、食道-胃接合部粘膜腺細胞の一部にも限局して発現することを見出した。さらに食道癌の外科的切除検体89例(腺癌27例、扁平上皮癌62例)を用いて免疫組織学的検討を行ったところ、GSTO2陽性率は腺癌で高く(48%)、扁平上皮癌で低かった(21%)。各組織型におけるGSTO2の機能的意義を明らかにするため、ヒト食道扁平上皮癌細胞株および腺癌細胞株にGSTO2を遺伝子導入し、その影響を比較・検討した。食道扁平上皮においては、GSTO2消失は癌細胞の増殖性亢進に寄与していた。更に、p38MAPKリン酸化によりβカテニン蛋白発現を抑制することで、上皮細胞の重要な分化マーカーであるE-カドヘリンの膜局在を制御していた。一方、腺上皮細胞においては、GSTO2遺伝子導入株によるE-カドヘリンの発現制御は見られなかった。以上より、GSTO2の分子機能は、腺上皮と扁平上皮で異なる可能性が高い。更に、癌化に伴うGSTO2消失メカニズムを明らかにするため、ヒト食道扁平上皮癌細胞株および腺癌細胞株をDNAメチル化阻害剤処理した。扁平上皮癌細胞株はDNAメチル化阻害剤処理によりGSTO2発現が回復したが、腺癌細胞株では顕著な発現は認められなかった。以上より、“胚性上皮細胞”からの癌化には、基底細胞から扁平上皮癌が生じる際に見られるDNAメチル化異常とは異なる機構が関与していると考えられた。
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Annals of Surgical Oncology
10.1245/s10434-020-09550-y
Carcinogenesis
巻: 41(7) ページ: 875-886
10.1093/carcin/bgz189