研究実績の概要 |
がん治療において、分子標的治療薬などの薬剤適応あるいは腫瘍マーカーの開発が近年急速に進んでいるが、口腔がんにおいては適応となる薬剤や診断マーカーが非常に限定的である。申請者は、上皮-間葉転換(EMT: Epithelial Mesenchymal Transition)に着目して確立した独自の機能的探索モデル系を構築し、新規EMT抑制性microRNAとしてmiR-655を同定し、がん細胞における浸潤能抑制作用や、食道扁平上皮癌検体におけるmiR-655発現と予後の相関を示した。血清中のmiR-655の測定による診断マーカーとしての臨床応用が食道扁平上皮癌において進められている(Kiuchi et al, Mol Cancer 2019)ことから、本研究ではmiR-655の口腔がんへの適応を評価する。 これまでの研究では膵臓がんを中心とした細胞株を用いてmiR-655の効果を検証してきたが、これを口腔がん細胞株(HSC2/3/7,TSU,HOC-313,KOSC-2)に導入する。まずはmiR-655とその標的遺伝子の発現をタンパクレベル・RNAレベルで解析し、発現プロファイルに応じて口腔がん細胞株を上皮系細胞株、間葉系細胞株に分類した。続いてEMT抑制能をmigration assay、invasion assayにて評価したが、仮説を裏付ける結果を見出すことはできなかった。 また東京医科歯科大学疾患バイオリソースセンターにて保有する、臨床情報を伴った口腔癌患者の血漿検体中の遊離miR-655を測定するべく準備を進めているが、COVID-19流行に伴う度重なる緊急事態宣言によって、特に健常人サンプルの収集に遅れが出ている状態である。
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