研究実績の概要 |
悪性黒色腫は口腔粘膜にも発生する悪性度の高い悪性腫瘍である.悪性腫瘍では腫瘍の成長に伴い,腫瘍細胞,血管内皮細胞,さらにこれらの細胞を支持する間質細胞から構成されるがん微小環境が構築される.この腫瘍微小環境内では細胞間同士がコミュニケーションをとり,腫瘍の増殖・浸潤・転移を制御する.Netrin-1とNetrin-4は多くの悪性腫瘍細胞の移動・浸潤に関わるが,悪性黒色腫におけるNetrin-1, Netrin-4の役割には不明な点が多い. そこでまずデータベース解析を行ったところ悪性黒色腫患者102名の病理組織マイクロアレイ解析ではNetrin-1,Netrin-4の発現が高い組織を持つ患者の方が生存率が低い傾向にあることが明らかとなった. 次にNetrin-1およびNetrin-4処理したところ,マウス悪性黒色腫細胞B16の細胞数が増加した.また細胞周期関連遺伝子CyclinA2,CyclinD2のmRNA量が増加したり,細胞移動能が増加した. 神経軸索誘導因子として発見されたNetrinであるが,近年多くの種類の悪性腫瘍細胞に対して悪性度を亢進させる方向に働くことがわかり,がん治療のターゲットとして注目が集まってきている.悪性黒色腫においてもNetrinシグナルの変異が悪性黒色腫患者の多くに認められることや,内在性のNetrin-1やNetrin-4がin vitroで細胞の移動能を亢進させるとの報告がある.しかしながら本研究内容から悪性黒色腫細胞における内在性のNetrin-1およびNetrin-4の発現量が非常に低いことや、低濃度の外来性Nterin-1およびNetrin-4に細胞が鋭敏に反応することなどから, 他の細胞から分泌されるNetrin-1やNetrin-4が悪性黒色腫細胞に作用する可能性が十分にある.
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