口腔乾燥症による唾液分泌量の低下は、インプラント周囲炎や歯周病の増悪、義歯の装着困難などを引き起こし、歯科補綴治療に際し問題となる。近年、全身の導管細胞に多く発現しているcystic fibrosis transmembrane conductance regulator (Cftr) 遺伝子の変異により水分泌の低下や粘稠度の増加が起こることが報告されているが、唾液腺での機能については未だ不明な点が多い。そこで本研究では、Cftr増強薬(VX-770)を応用し、唾液分泌機能の回復・増強に有効か評価することで、Cftrと唾液腺機能の関連について調査することを目的とする。 本研究ではC57BL/6Jマウスを用いて解析を行った。まず、ex vivoマウス顎下腺灌流実験により唾液分泌量を測定し、分泌唾液を回収した。実験24時間前にコントロール群には生理食塩水を、実験群にはCftr増強薬であるVX-770をそれぞれ腹腔内投与した。Ex vivo顎下腺灌流実験の結果、コントロール群と比較して実験群では唾液分泌量に変化はなかった。しかしながら、分泌唾液中のイオン濃度やpHを測定したところ、実験群でNa+およびCl-濃度が有意に低値を示した一方で、pHは有意に高値を示した。 本研究では、Cftr機能の増強による唾液分泌量の変化は認めなかったが、唾液の質が変化していることが明らかとなった。今後の課題としては、唾液の粘稠度といった唾液性状の変化についての評価や質が変化するメカニズムについて検討する必要があると考える。
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