研究課題/領域番号 |
19K24082
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研究機関 | 神奈川歯科大学 |
研究代表者 |
藤岡 隼 神奈川歯科大学, 歯学部, 特任講師 (70849356)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2022-03-31
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キーワード | 赤外自由電子レーザー / 薄膜 / 金属有機化合物 |
研究実績の概要 |
薄膜生成技術はナノテクノロジーを支える重要な技術であり,医療分野においても冠動脈ステントやカテーテル,医療金属器具にもこの技術が応用されている.これら薄膜材料の更なる高機能化にはバルク構造や物性の制御に加えて表面・界面の制御が重要であるがまだまだ改善の余地がある.このため,医療デバイスに用いる生体適合性付与にが大きく注目され,安全性と医療経済性を兼備した表面処理技術の開発の需要は高い.多数の薄膜生成技術が存在し,様々な工夫が研究されているが,熱に脆弱な基板を用いる場合,レーザーを用いた薄膜コーティング技術が用いられることがある.しかし,この方法は報告数が少ない上にその分子レベルでの反応過程は不明な点が数多く残されている.更に,用いられるレーザーは紫外・可視領域に発振する光源が殆どで,赤外を光源とするレーザーによる報告は皆無に等しい. 本研究は4段階の工程(溶液塗布・乾燥・仮焼成・焼成)を経由して金属薄膜を得るゾル・ゲル法やMOD(Metal Organic Deposition)法のうち,仮焼成・焼成の工程をレーザー照射に置き換えることで生成する結晶の制御を自在に行うことを目的とした.レーザー照射の光源としては既に報告されている紫外領域に発振するレーザーではなく,中赤外領域に発振する赤外自由電子レーザーを用いた.Fe,Niの有機金属化合物のFT-IRスペクトルを測定し,官能基の分子振動に共鳴する照射波長を複数決定した.照射後に生成した薄膜をX線回折法で分析した結果,通法で生成した薄膜とは異なる組成の薄膜が生成している可能性が示唆された.今後,様々な解析手法を組み合わせて分子レベルでの表面反応を追跡していく予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当該年度は赤外自由電子レーザーを金属有機化合物を塗布した基板に照射し,生成した薄膜の解析を行う予定であった.東京理科大学の赤外自由電子レーザーは加速器の故障により運転を停止したが老朽化により修理叶わず,2021年度での運転終了と研究センターが解体となった.この状況は予め予測されていたのでバックアップとして同等の性能を有する京都大学の赤外自由電子レーザー(KU-FEL)を用いて実験を継続することとしていた.しかし,コロナ禍による緊急事態宣言の影響で京都大学や大阪大学への出張が著しく制限され,実験自体を行うことが困難な時期が多くあったため,京都大学のKU-FELを用いた実験は実行できたものの,当初予定していたよりも少ない回数となってしまい,想定していた分量の試料を得るに至らなかった.更に,レーザー照射した薄膜を解析するにあたっても東京理科大学の入構制限もあり,解析も遅延している.他の研究者との交流もオンラインを用いて行っているものの,実際に実験しながらの議論でないと進度は遅くなりがちである.照射済の試料においてもX線回折法(XRD)による解析は実行できたものの,全ての試料の解析は未だ未到達である.更に,前年度の照射実験を通して照射方法に改善が必要であることが判明した.具体的には自動ステージを用いて基板の大部分を走査するような照射方法を採用する必要があり,現在そのプログラムを作成中である.作成には時間を有するため,また作成して試験照射を行う必要があるので実験系の改良には暫くの時間を要する.これらの状況を踏まえて,総合的にはやや遅れているという判定を行った.
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今後の研究の推進方策 |
今年度,止む無く期間延長を申請した.コロナ禍も予断を許さないが,今年度は京都大学や大阪大学への出張実験を予定している.大学によっては政府の緊急事態宣言等,感染対策施政の状況によって入講制限が行われることがあり,安定した出張回数が確保可能か不明である.極力,臨機応変に対応し,実験を行いたい.京都大学からは執筆時点で今年度前半から中期にかけて集中的に実験可能である由,連絡を受けているのでこの機会に様々な波長の赤外レーザーを照射して照射済試料を確保したいと考えている.また,赤外自由電子レーザーを照射するに当たり,自動ステージのプログラムを作成して照射系を改良する必要がある.速やかにプログラムを作成すると同時に,利用に際して出張や放射線取り扱いなどの制限の影響が少ない可視光レーザーを用いて速やかに完成させる.加えて,可視光レーザーを用いて比較対照実験をも行う予定である.また,並行して試料解析も進めていく予定である.とりわけXRD解析においては東京理科大学の基礎工学部から支援を受けられることになったので,専門家と連携して迅速に解析を進めていく予定である.やむを得ず期間延長を行う運びとなったが,最終年度であることも考慮し,医療応用という本来の目的も鑑み,細胞毒性試験等,生体親和性も測定する予定である.コロナ禍で学会開催状況も混乱しているがこれらの研究成果を取り纏めて発表に漕ぎ付け,成果の社会還元に努める予定である.発表は実験の進捗状況にもよるが,2022年1月に予定されている日本放射光学会での成果発表を目標としている.
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で当初予定してた出張(学会・実験)が大幅に減少した為当初予定していた旅費の使用が計画通りとならなかった.また,施設利用料の計上に関して,①東京理科大学の赤外自由電子レーザーが加速器の故障の為,2020年度の運転がほぼ行われなかった,②コロナ禍で京都大学や大阪大学への出張が著しく制限された.とりわけ,大阪大学には実験の打ち合わせこそ行ったものの,出張には至らなかった.これらの理由により,旅費・施設利用料が計画を大幅に下回ることとなった.その為,赤外自由電子レーザーの照射系の改善改良を図るため,またレーザー照射時に発生する気体を採取し,赤外吸収スペクトルや質量分析を行って,所謂”引き算”の発想で反応機構を追跡することも研究計画に加えた.これによりガスセルに取り付ける赤外透過性を有する窓材等が必要となり,支出を行った.その為,物品経費が予定額よりも超過している.今回,1年間の延長を行い,今年度が最終年度となる為,遅延していた分の実験を精力的に行い,学会発表まで到達したい.京都大学から実験再開可能との連絡を受けているため,今年度は出張による旅費と利用料,更には研究成果の社会還元の為学会発表を行う予定であるので学会参加費等を繰り越した研究費の主な使用用途とする予定である.
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