金属薄膜は半導体等に用いられる工業的に重要な技術である.薄膜生成法は多岐に亘るが, MOD(Metal Organic Deposition)法はコストが安く,生成物質の制御という点で優れた方法である.基板への溶液塗布,乾燥,仮焼成,焼成の4段階の工程を経る方法が一般的であるが,加熱工程では熱というランダムなエネルギーを与えることになるので単一組成の結晶ではなく,複数種の結晶生成が起こることが多い.また,熱に代わってレーザー照射によりエネルギー供給を行う手法も報告されているが,紫外・可視領域に発振する光源のみの報告となっている.理想としては単一組成の結晶を得たいが,この為には結晶生成の化学反応を制御する必要がある.今回,分子の吸収に波長を設定可能な京都大学設置の赤外自由電子レーザーを用いて結晶生成における化学反応の制御を試みた.溶液はチタン,鉄,ニッケルの有機金属化合物溶液を用いてSiまたはPt基板に塗布・乾燥を行った.その後,大気中または減圧下条件において分子の赤外吸収に共鳴するレーザーを照射した.照射時,予めプログラムされた自動ステージを用いて走査を行い,広範囲に照射スポットを作製可能とした.また,ヒーターを用いて加熱による薄膜生成法も比較対象として行った.試料作製後は赤外分光(FT-IR),X線回折装置(XRD)を用いて生成した結晶の組成を解析した.その結果,加熱を用いる通法と赤外光照射後の試料では生成物の化学組成が異なることが判明した.この結果は,分子の吸収と共鳴する赤外光は選択的に任意の物質の生成を誘導可能であることが示唆された.
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