CXCR4-SDF1(stromal cell derived factor 1) axisは、血管新生に関与し腫瘍の増殖や生存に寄与することが報告されている。申請者らは臨床検体を用いて口腔の高分化扁平上皮癌にCXCR4を発現する腫瘍血管が存在することを明らかにした。さらに、高分化型ヒト由来口腔扁平上皮癌細胞株(HSC2)をマウスの背部皮下に移植し、CXCR4阻害剤であるAMD3100の腹腔内投与を行い、腫瘍の増殖におけるAMD3100の効果を検討し、さらにコントロール群と組織学的に比較するとともに血管の走行および形態の比較を行った。腫瘍部では血管に陽性を示し、非腫瘍部では陰性であった。また、CXCR4阻害群ではコントロール群と比較して優位に壊死面積が広いことが分かり、血管周囲の一層の腫瘍組織を残し、その周囲が脱落したような特徴的な壊死像を示した。これは臨床検体で認められる一般的な腫瘍壊死の像とは異なり、CXCR4阻害に伴い特異的な腫瘍環境が形成された可能性が考えられた。また、血管の長さの平均値、合計、長さ別の分類を比較すると、どの項目でも、CXCR4阻害群では短い血管が多いという結果を示した。 このことより、CXCR4は腫瘍の血管形成の役割があり、CXCR4阻害薬によって、腫瘍の血管形成が抑えられ、壊死を引き起こすと考えられる。よって、CXCR4の阻害は口腔扁平上皮癌治療における有効な抗腫瘍血管形成治療戦略となり得るということが示された。
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