研究課題/領域番号 |
19K24101
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
中鍛治 里奈 横浜市立大学, 医学部, 助教 (80845511)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | 鉄アセン / 口腔がん / ドラッグデリバリー |
研究実績の概要 |
本申請の1年目の研究内容は2点に集約される。1点目は鉄アセンの磁性の評価である。2点目は口腔がん細胞株に対する細胞毒性の評価である。まず1点目として鉄アセンの磁性の評価を行った。磁性の評価には、目視による確認を行った。ディッシュに水を張り、水面上に浮かべた鉄アセンに対し、ディッシュの底面から磁石を近づけた際に鉄アセンの粉末は磁石に集積するかを確認した。すると、一部は水に溶けてしまったが、一部は水面上に浮いたままで、近づけた磁石に粉末が集積することが確認できた。この結果は、鉄アセンの粉末が磁性をもつため磁石に集積するということを明らかにした。 2点目に私は鉄アセンの磁性の評価を行った。化学構造からみる仮説では、鉄アセンは抗腫瘍効果を持たないと推測された。抗腫瘍効果を持たないことで、市販薬を磁性化するための薬として広い範囲で利用できると考えている。評価の際にはヒト由来口腔がん細胞株を使用し、XTTアッセイを用いて鉄アセンによる刺激後一定時間後の細胞の生存率を測定した。比較として、Fe(Salen)を用いた。Fe(Salen)は様々ながん細胞株に抗腫瘍効果を発揮し、磁性をもつ錯体である。先行研究で明らかにしたFe(Salen)の適正濃度を参考にし、同濃度の鉄アセンとの抗腫瘍効果を比較した。結果、Fe(Salen)は15μM、30μMの刺激で十分な抗腫瘍効果を発揮したのに対し、鉄アセンはいずれの濃度でも抗腫瘍効果を示さなかった。コントロールと比較しても有意な抗腫瘍効果を認めなかった。この結果より、鉄アセンは抗腫瘍効果を持たないことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請期間の初年度1年間で達成するべき項目を達成することができた。達成すべき項目として、鉄アセンの薬剤としての評価をあげており、今回、鉄アセンの磁性の評価を抗腫瘍効果の有無を調べ明らかにすることができた。さらに、実験中には溶解性についても明らかにされた。先行研究で用いたFe(Salen)は、抗腫瘍効果を持つものの水に溶けにくいという性質をもっていた。それに比べて鉄アセンは抗腫瘍効果は持たないが磁性は持ち、水に溶けやすいという性質を持つことが明らかとなった。磁性の有無を数値として明らかにできなかったことが課題として残った。
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今後の研究の推進方策 |
申請初年度はin vitroを中心に研究を行ってきた。in vitroの実験で抗腫瘍効果がないことを確認できたものの、動物を用いたin vivoの実験で同様の現象を確認する必要がある。2年目は引き続きin vitroの実験を進めながら、マウスを用いた動物実験に着手する。鉄アセンが磁石に集積するという性質を利用し、マウスの体内においてもそれが実現しうるか確認する。マウスの体内に注入した鉄アセンに対し、磁石を体外から当てた時に体内で磁石部に鉄アセンの集積が起きるか確認する。確認方法としては、マウスの皮下に口腔がん細胞を移植し生着させたうえで、鉄アセンを体内に注入し、生着した癌の腫瘍部に磁石が当たるように留置した際に、腫瘍部に鉄アセンが集積するかを観察するというものである。腫瘍の腫瘍サイズも計測することによって、鉄アセンによる抗腫瘍効果がみられるか確認する。 本申請では、最終的にin vivoでも、in vitroでも、鉄アセンが抗腫瘍効果を持たず、強い磁性をもつことを確認する。他一般試薬を”磁性化させる薬剤”として利用できるか確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
動物実験に多額の使用が予想されることや、初年度の支出が最低限に抑えられたため次年度使用額が生じた。次年度に回したものを主に動物実験に充てることとし、十分な回数の動物実験が行えるよう調整する。
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