研究実績の概要 |
我々は株式会社IHIとの医工連携研究で、有機化合物でありながら磁性をもち、さらに強い抗腫瘍効果をもつμ-oxo N,N-bis(salicylidene)ethylenediamine iron [以下、Fe(Salen)]を同定した。さらにこの研究をすすめ、磁性がより強く、また、あらゆる化合物に容易に結合する新しい化合物(以下、鉄アセン)を合成した。本研究では、鉄アセンの磁性強度や細胞毒性の有無について評価を行い、鉄アセンを用いた新しいドラッグデリバリーの手法を検討した。 本研究の目的は、鉄アセンの機能評価を行うことで新たな磁性化薬品としての素質を見極め、磁性化技術の確立に結び付けることである。また、鉄アセンそのものを新たな医薬品として使用していくための手法について具体的に検討することである。そのために、鉄アセンの磁性評価や毒性について、それぞれ電子スピン共鳴装置による評価や細胞生存アッセイをすることで評価した。また、鉄アセンは磁石との間の磁力によって誘導されることが分かったため、マウス担癌モデルを使用して、生体内にある鉄アセンを磁石によって誘導できるか確認した。 結果として、鉄アセンは磁力をもつが、砂鉄に及ぶほどの磁力は持たないことが明らかになった。鉄アセンは細胞毒性を持つが、高濃度で発揮される毒性であるため低濃度に留めた使用であれば毒性なく用いることができると明らかになった。また、生体内にある鉄アセンの磁石による誘導では、鉄アセンの誘導を可能にすることができた。また、担癌モデルを用いたことでin vivoでも抗がん作用をもたないことを明らかにすることができた。これらの結果から、鉄アセンは磁性化薬品として有用な化合物であることを明らかにできた。今後、この鉄アセンと市販医薬品を化学結合させることで、あらゆる磁性化医薬品の開発が期待できる。
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