本研究は、「歯周病の発症や再発を“Persister”の視点から防ぐ」ことをキーワードとして研究を行った。細菌はPersisterという外部ストレスに対する抵抗性の高い状態に移行することで、薬剤や飢餓など様々な環境で生存する。外部ストレスが緩和されると再び増殖を始めるため、病原細菌においてはこれが、治療が完治しないまたは再発の原因とされている。口腔病原細菌も同様にPersister化が原因で歯周病などの完治を困難化していると考えられる。よって口腔病原細菌が形成するPersisterに着目し、発生率やメカニズム、更にはPersisterの除去法を確立することで、歯科臨床上の問題解決に繋げることが目的である。 初年度は、大腸菌Persisterを通常のアクティブな状態に移行させる方法とその遺伝子メカニズム解明に着手した。結果として、Persisterは必要な栄養を近くに感知すると活動を再開する遺伝子メカニズムを初めて明らかにした。これは非常に重要な知見であり、この方法でPersisterを強制的に通常状態に移行させることがきる。通常のアクティブな状態であれば、抗生物質などの感受性が増すため、容易に殺菌除去することが可能となる。これらの成果は学術論文としてCellグループの新雑誌であるiScienceにて報告した。 最終年度は更に、Persister化した細菌の効率的な殺菌法として活性酸素種が高い効果を発揮することを発見し、中でもヒドロキシルラジカルが最も殺菌効果が高いことを明らかにした。この成果はFrontiers in Cellular and Infection Microbiologyにて報告した。また、口腔細菌バイオフィルムに対して有効な薬剤としてラムノリピッドやサーファクチンなどのバイオサーファクタントがその形成抑制に非常に効果が高いことを発見し、その成果をBMC Microbiologyにて報告した。
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