間葉系幹細胞(MSCs)は多くの細胞系統に分化し有力な再生医療の細胞資源である。歯髄から得られる幹細胞は骨髄由来の幹細胞と同等の増殖力と分化能を有している。更に幼児期の自然脱落歯や抜去智歯から得られるため、費用や侵襲性の少なさにおいて特に優れた細胞資源である。実際、申請者の所属する日本歯科大学では2015年より歯髄細胞バンクがスタートしており、再生医療の実現に向けた基礎的研究が開始されている。本研究の目的は、歯髄間葉系幹細胞から分化させた肝形質を有する細胞が、将来疾患に罹患した時に用いるテーラーメイド細胞資源としての有用性の確立に向けた基礎研究を行うことである。 具体的には抜去歯から歯髄組織を分離し、細胞培養とした。まず、Activin AとFGF、次に、HGFを培地に加えると紡錘形の間葉系幹細胞は多角形の肝細胞の形態に類似した細胞に分化した(Hepatocyte-like cell:HLCs)。この細胞はアルブミンを産生し、アンモニアを尿素に転換することが示されたため成熟肝細胞の機能を有すると考えられた。また肝細胞特異的転写因子HNF-4の発現を認めたことより、歯髄細胞から肝細胞への分化の道筋を作ることができたと考えている。薬剤による重症な肝障害のモデルラットを作成し、尾静脈からHLCsを投与して肝障害の程度をコントロール群と比較して検討した。結果、ALT/AST、T.Bilなど肝障害の程度が抑制された。次に、肝障害ラットの門脈内あるいは、尾静脈にHLCsを投与した場合の、肝および肺における細胞動態を定量的に解析した。結果、門脈からの投与では短時間のみ肝臓からHLCsが検出された。尾静脈からの投与では多くのHLCsが肺から検出され、このHLCsが何らかの因子を産生して、免疫抑制効果や細胞増殖効果を発揮し病態改善に関与する可能性を示した(Paracrine効果)。
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