研究実績の概要 |
超高齢社会を迎えた日本では、肺炎は死因の第3位を占め、その多くは誤嚥性肺炎である。しかし、誤嚥の原因となる咽頭残留を、簡便かつ定量的に評価する方法は確立されていない。研究代表者は、食品から放出された香気が咽頭から鼻腔へと流れる経路(レトロネーザル)に着目し、咽頭残留を定量評価する試みを行っている。今まで、咽頭残留をシミュレートすることで、香気量から咽頭残留量を短時間で定量評価できる可能性を見出してきた。しかし、嚥下障害者では、誤嚥を防ぐためにとろみを付与した液体を摂取するが、とろみによる香気量の変化については明らかとなっておらず、さらなる検証が必要である。本研究課題では、咽頭残留の定量評価法の確立を目指すことを目的とする。 前年度までは、香りを付与した水(以下、水試料)の嚥下時および固形食品の摂取時における香気量を測定し、液体の量や食品の表面積によって香気量が変化することを明らかにした。本年度は、香りを付与したとろみ液体(以下、とろみ試料)を用いて香気量の変化を測定し、咽頭残留量の推定方法を検討した。 測定には、新コスモス電機社製ニオイセンサを用いた。とろみ試料の調製は、とろみの付与にはクリニコ社製とろみ調製食品を、香りの付与には三栄源エフエフアイ社製香料を用いた。咽頭残留量による香気量の変化をシミュレートするため、とろみ試料 0.2ml, 0.4ml, 0.6mlのそれぞれについて香気量を測定した。 とろみ試料の量が増加するにしたがい、香気量も増加した。これは、水試料と同等の傾向であったが、同一量ごとの香気量のバラツキはとろみ試料の方が水試料に比べて小さい傾向があった。これは、とろみ試料のもつ凝集性により、液面および表面積の変化が抑制され、安定した香気放出がなされたためと考えられた。 以上より、とろみ試料を用いて香気量を測定することにより、咽頭残留量を安定して推定できる可能性が示唆された。
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