研究実績の概要 |
歯周病は、歯と歯肉間のバリア機構の破綻による細菌感染が大きな病因である。病態の進行その中で付着上皮はエナメル質に接着することで物理的な防御作用を担っている。我々は,このエナメル質への接着に細胞内のRhoシグナルが重要な働きをしており,このシグナルを制御するSemaphorin4A,4D (Sema4A,4D)が付着上皮に発現していることを見いだした。 一方で, これらのSema4A,4DがT細胞のサブセットであるTh1/Th2, Th17/TregなどのTリンパ球サブセットの分化機能に関わっていることや樹状細胞やTリンパ球もまたSema4A,4Dを発現することが報告されていることから,上皮-免疫担当細胞間での連携によってバリア機能が構築されているのではないかと考えた。 そこでSema4A,4Dを介した上皮細胞と免疫担当細胞間での連携によるバリア機能のメカニズムを明らかにして,歯周組織のバリア機能を高めることによって歯周病の発症の予防ならびに治療法の開発に活かすことを立案した。本研究では付着上皮におけるSema4A,4Dの発現制御機構の解明,歯周病病原菌によるSema4A,4Dの発現変化,Rhoシグナルの機能低下と歯周病の進行との関係および歯周病の治療法・予防法に向けたRhoシグナルの活性化法について研究を行っている。 本年度の研究は歯肉硬上皮細胞・付着上皮のバリア機能に関わる分子の探索を中心に進めた。具体的には、マウスの歯周組織標本におけるSema4A,4Dとその受容体であるPlexinB1,B2など、活性型Rho分子の存在を免疫組織学的に確認した。また、上皮特異的Rhoシグナル低下マウスを用いて免疫担当細胞の存在や分化状態の変化について解析を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度はin vitroによる歯肉溝上皮細胞の防御機構の解析を行う予定である。 具体的には、抜歯を行ったマウスの歯肉より上皮細胞を単離して細胞株を作成する。この細胞の発現遺伝子をRT-PCRや免疫組織学的手法で解析する。また、Rhoの活Sema4A,4DによるRhoの活性化ならびに最も効果的なRhoシグナルの活性化タンパク並びに化合物の選択を行う。 また、Th1/Th2,Th17/Treg培養細胞にSema4A,4Dを添加してRhoシグナルの活性化とサイトカインの発現変化について検討する。 次にで作製した細胞株を用いて付着上皮バリアモデルを作製して,効果的なバリア機能を向上させる薬物の探索を行い,歯周病予防ならびに治療に有用な方法の開発を行う。得られた研究成果をまとめ、関連学会での報告および学術論文の作成を目標とする。
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