口腔機能の維持,回復のためには適切な診断,管理,動機付けが重要とされている。本研究では,患者の口腔機能に関する認識および関心と口腔機能の関連性,介入による変化を検討し,患者に対する動機づけの重要性を調査することを目的とした。 対象を50歳以上の歯科外来初診患者として,口腔機能精密検査と口腔機能に関する指導,その前後において質問紙調査を実施した。質問紙には,口腔機能に対する関心度を調査する質問を設定した。得られたデータより,口腔機能に対する意識変化および,口腔機能への関心度と口腔機能検査値の関連性を調査した。 最終的に75名分のデータを収集し,解析対象は63名となった。口腔機能低下症という単語の認識を問う項目において,対象者の93.7%は介入前では口腔機能低下症の認識が低いまたはない状態だった。しかしこれを含めたすべての質問において介入前から介入後にかけて口腔機能への認識・関心度に改善がみられた。さらに,対象者を75歳未満および75歳以上で分け,質問への回答によって関心あり群(P群),関心なし群(N群)の二群に分類し,それぞれの口腔機能の状態を比較した。その結果,関心度が低い者は口腔機能が低下している傾向がみられた。特に75歳以上の対象者において,N群はP群よりもオーラルディアドコキネシスの有意な低下が認められた。一方で,75歳未満のP群はN群よりも口腔機能が低下している傾向もみられた。 本結果より,口腔機能への認識や関心度と口腔機能の関連性が明らかとなった。また口腔機能への認識や関心度は口腔機能に関する検査や指導によって向上することも明らかとなった。口腔機能低下および全身のフレイルを防ぐために,早期の介入や意識付けが重要である。口腔機能低下症の認知度や知識の普及が不足している可能性も示唆されたため,今後はよりいっそうの啓発活動が必要であると考えた。
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