研究課題/領域番号 |
19K24131
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
築根 直哉 日本大学, 歯学部, 専修医 (20847785)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | 口腔がん / p53 / ポリエチレングリコール |
研究実績の概要 |
土壌微生物由来の新規化合物 Nonaethylene glycol mono (’4-Iodo-4-biphenyl) ester (9bw)は、歯肉細胞がんCa9-22をはじめとする、がん抑制遺伝子p53に変異のある腫瘍細胞に対しては強い増殖抑制効果を示すが、p53野生型のがん細胞に対してはほとんど毒性を持たないことがわかっている。9bwは細胞内のATP産生を抑制することで腫瘍細胞に細胞死を誘導するが、9bwに耐性を持つ正常細胞やp53野生型細胞においても9bwによるATPの産生低下は9bw高感受性細胞と同程度に見られることから、9bwに対する感受性の違いは、低ATP状態に対する感受性の違いによるものである可能性が考えられた。そこで、9bwの作用機序を解明することを目的として、昨年度はATP濃度の低下により活性化するAMPKの発現レベルおよび活性化レベルをウエスタン・ブロッティングにより解析した。P53野生型細胞として舌がん細胞株UM-SCC-6、乳がん細胞株MCF7, 神経芽種細胞株NB1, NB9、p53変異型の細胞としては歯肉がん細胞株Ca9-22、舌がん細胞株HSC3、乳がん細胞株MDA-MB231, 膵がん細胞株MiaPaca-2, 神経芽種細胞株SK-N-AS およびKelly を用いた。解析の結果、これらの細胞の間でAMPKの発現量およびリン酸化レベルに顕著な差は見られなかった。この結果から、9bwに対するp53野生型細胞とp53変異型細胞の差は低ATPに対する差ではない可能性が考えられた。そこで9bwがATPの産生抑制とは別の機序で細胞障害性を示している可能性を検討するため、新たな9bwの標的を探索することを目的として、9bw 投与後に変化する遺伝子の発現を網羅的に調べた。9bw投与後に2倍以上有意に発現が上昇または低下していた遺伝子約2500個についてProfiler とKEGG pathway を用いた分類を行ったところ、オートファジー関連分子、mTOR関連分子、ErbB2 関連分子が多く含まれていることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、9bw投与後のAMPKの発現・活性およびmTOR等のAMPK下流シグナルの活性化状態を調べる予定であったが、昨年度行った実験の結果、AMPKの発現や活性化レベルはp53野生型・変異型細胞の間で顕著な差が見られなかったためAMPKの解析のみにとどめた。また以上の結果より、9bwに対する感受性の違いが、低ATP状態への感受性の違いでは説明できない可能性が出てきたため、網羅的な遺伝子発現解析により、9bwの新たな標的の探索を行った。以上の研究内容は当初の計画とほぼ同様であるため、研究は概ね順調に進行していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度行った網羅的発現解析の結果から、9bw投与によりオートファジー、mTORシグナリング、ErbB2シグナリングに関連する経路が大きく変化することがわかったことから、本年度はそれらの経路に関する分子の発現レベルや活性化レベルにp53野生型細胞と変異型細胞の間でなんらかの差があるかどうか、リアルタイムPCRやウエスタンブロッティングにより検討する。また、これまでの共同研究者らのデータから、9bw投与後のATP産生低下レベルにはp53野生型細胞と変異型細胞で顕著な差がないと考えていたが、ルシフェラーゼ活性を指標としたATP濃度の定量は培地中の成分の影響を受けて結果がバラつきがちである。これまでは培地に直接ATP測定試薬を入れる方式で測定を行っていたが、本年度は培地を除去し、溶解バッファー中に溶出したATPを測定する方式で、再度解析を行う。また測定時間も、これまでは9bw投与後8時間目のみのATP濃度を測定していたが、本年度は投与後1~2時間おきに12時間目までの間、継時的に濃度測定を行う。これにより、9bw投与後のATPの濃度低下レベルに、p53野生型細胞と変異型細胞の間で差があるのかどうか再度検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度は9bw投与後のAMPKの発現・活性およびAMPK下流シグナル分子の活性化状態をウエスタンブロッティングにより調べる予定であったが、AMPKの発現・活性化レベルにp53の変異の有無による差が見られなかったことから、AMPK下流のシグナル分子については解析を行わなかった。そのため、これらの分子の解析に必要な抗体やウエスタンブロッティング関連の消耗品の購入費用が不要または減額となり、繰越金が発生した。令和元年度の繰越金と令和2年度の助成金を合わせて、リアルタイムPCRやウエスタンブロッティングによる9bwの標的候補の発現解析を行う。加えて、9bw投与後のATP濃度の変化を、前年度より改良したプロトコールで継時的に解析する。
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