研究課題/領域番号 |
19K24138
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
古澤 慧美 東京医科歯科大学, 歯学部附属病院, 医員 (00848674)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | 口腔粘膜 / 粘膜局所T細胞 |
研究実績の概要 |
近年、末梢組織における免疫制御機構の研究が進み、末梢組織にリクルートする免疫細胞群は、局所サイトカイン環境によって様々に修飾されることが報告されている。本研究では、口腔に生じた炎症が慢性化する過程で、局所に集積する細胞群がどのような表現系や機能を持ち、炎症の慢性化に寄与しているかを解明することを目的とした。2019年度はまず、慢性口腔粘膜炎マウスモデルの樹立と、そのマウスモデルにおける口腔粘膜局所T細胞の解析を行った。 OVA(1mg/ml)と完全フロイトアジュバントの混合液を全身性に投与し、感作を行った後、5日後にマウス頬粘膜にOVA(1mg/ml, 5ul)を塗布すると、48時間をピークとする炎症が惹起され、この炎症は10日後には収束していた。炎症を慢性化させるため、15日間隔で3回、頬粘膜にOVA塗布を繰り返し、最終塗布から15日経過後の頬粘膜をHE染色により評価したところ、慢性炎症に特徴的な所見である、1)上皮脚の伸長 2)角化亢進 3)血管新生 が認められた。また、粘膜局所に分布するT細胞について解析したところ、我々の予想に反して、局所には制御性T細胞(Treg)が多く分布しており、それらはCD69やCD103といった末梢組織常在性T細胞のマーカーを発現していた。一方で、炎症惹起に関与すると考えられる、末梢組織常在性T細胞のマーカーを発現したCD8T細胞の比率はTCRbeta+T細胞の5%以下であり、非常に少ない割合を示していた。しかし、これらの細胞集団は、抗原再刺激に際し、IFN-gannma発現が急激に上昇していたことから、粘膜局所に存在するCD8T細胞は、非常に少ない割合でありながら、抗原刺激に際して瞬時に応答し、炎症惹起に関与する細胞集団であることが示唆された。今後は、炎症が慢性化する過程で、局所に集積するTregの性状と機能について更なる研究を遂行する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
卵白アルブミン(OVA)を用いて、マウス口腔粘膜に慢性炎症を誘導することに成功した。OVA(1mg/ml)と完全フロイトアジュバントの混合液を全身性に投与し、感作を行った後、5日後にマウス頬粘膜にOVA(1mg/ml, 5ul)を塗布すると、48時間をピークとする炎症が惹起された。炎症所見については、HE染色により、上皮の肥厚や炎症性細胞浸潤から判断した。また蛍光免疫組織染色解析により、頬粘膜へのOVA塗布から48時間経過した頬粘膜において粘膜下へのCD4T細胞およびCD8T細胞の集積が認められた。粘膜下における炎症性細胞浸潤は1回目の抗原塗布から10日経過後には収束していた。そこで、反復抗原塗布の間隔を15日とし、3度抗原刺激を行った。最終抗原塗布から15日経過した組織を採取し、HE染色にて、炎症所見を確認したところ、上皮脚の伸長や、角化層の肥厚、血管新生といった慢性炎症所見が認められた。さらに、この時点におけるCD4およびCD8T細胞の分布を、蛍光組織染色により評価したところ、CD4T細胞とCD8T細胞では組織内での分布位置が異なり、CD4T細胞が粘膜下の深い部分に存在するのに対し、CD8T細胞は上皮直下、または上皮内に入り込むような状態で分布していた。これらのT細胞が、局所常在性メモリーT細胞の表現系を示すかを確認するため、頬粘膜からリンパ球を分離し、フローサイトメーターにて解析したところ、CD4T細胞の約半分が制御性T細胞(Treg)であった。また、CD8Tだけでなく、Tregについても、局所常在性メモリーT細胞の表現系をもつ細胞集団が存在することが明らかとなった。このように、本モデルにおいて、頬粘膜局所に分布するT細胞サブセットを解析することで、局所常在性T細胞の表現系を示すTreg集団を同定することができたため、本研究の進捗状況は概ね良好であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度の研究から、OVAを用いた口腔粘膜への反復抗原塗布により、CD103やCD69といった末梢組織常在性T細胞の表現系を示す制御性T細胞を同定することができた。これらの細胞集団は、慢性炎症組織において、過度な炎症の抑制に機能していると考えられるが、その機能は明らかではない。本年度は、口腔粘膜の慢性炎症叢から単離した制御性T細胞の機能と、免疫抑制能について、更なる研究を遂行する。 粘膜局所に集積する制御性T細胞機能を明らかにすることで、これらの細胞群の炎症慢性化への寄与が明確となると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は、研究費の使用期間が6ヶ月だったため、全額使用には至らず、次年度へ繰り越すこととなった。また、予定していた以上に1度の実験に時間かかったため、実験回数が少なくなり、全額使用には至らなかった。
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