研究課題/領域番号 |
19K24138
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
西井 慧美 東北大学, 加齢医学研究所, 助教 (00848674)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2022-03-31
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キーワード | 免疫学 / 口腔粘膜病変 |
研究実績の概要 |
本年度は、口腔粘膜に生じる炎症性疾患の1つとして、抗癌剤である5-Fluorouracil(5-FU)の投与に伴い口腔粘膜に生じる粘膜炎へのT細胞の関与についてマウスモデルを用いて検討した。抗癌剤は、増殖の活発な上皮細胞に作用して再生を阻害するため、些細な物理的ダメージによっても上皮細胞のバリア構造が破壊される。上皮バリア機能の低下は、病原微生物や有害物の生体内への侵入を許し、宿主-細菌叢の均衡を壊す。これまで、粘膜炎の惹起機構における研究の対象は自然免疫細胞に限局しており、獲得免疫を介した炎症惹起機構についてはよくわかっていなかった。抗癌剤投与に伴う炎症下の粘膜では、IL-1やIL-6、TNF-aと並んで、IFN-rの産生増強が種々の動物モデルにおいて報告されている。我々は、抗癌剤誘導性口腔粘膜炎マウスモデルを樹立(Nishii et al. 2020)し、IFN-rに着目して解析を重ねる中で、IFN-rの由来が、自然免疫細胞ではなく、T細胞であることを見いだした。IFN-r+Foxp3-CD4T細胞や、IFN-r+CD8+T細胞は炎症初期からピーク期にかけて、口腔粘膜の炎症部に集積し、炎症が収束すると共に減少していた。一方で、炎症の収束期においては、抗炎症に機能するFoxp3+制御性T細胞(regulatory T; Treg)の比率が上昇していた。また、驚くことに、IFN-r欠損マウスでは、炎症初期からピーク期における臨床症状が軽減されているだけでなく、炎症収束期におけるTreg比率が優位に上昇していた。以上の結果から、炎症局所におけるIFN-rの発現抑制は、炎症開始期において、粘膜炎症を軽減させるだけでなく、組織の回復期においてTreg誘導を促進することで、「炎症惹起」と「炎症抑制」のバランスを効率よく抑制優位にSwitchさせていると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
COVID-19の感染拡大に伴い、研究時間が制限されてしまう時期があったため。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策として以下の2点に着目して研究を遂行しようと考えている。 ①抗癌剤誘導性口腔粘膜炎におけるIFN-r産生細胞の誘導機構。炎症粘膜にIFN-r産生T細胞が誘導されるメカニズムには、「粘膜炎症に伴う上皮バリア機能の低下と病原性細菌の粘膜下への侵入」が関与している可能性が高い。今後は、病態形成に伴う粘膜下での細菌の侵入とT細胞のリクルートの連関に着目して研究を遂行する。 ②炎症粘膜におけるIFN-rの局所制御が、制御性T細胞の効率的な誘導を促進し、結果として炎症惹起/抑制のバランスを抑制優位にswitchできるか、の検討。IFN-rの局所制御法としては、将来の臨床応用を想定し、siRNAを用いた軟膏製剤の局所塗布を検討している。現在、IFN-rの産生を効率的に抑制するための標的分子について検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの感染拡大につき、当該研究が予定通り進まなかったため、次年度使用額が生じた。当研究費の繰り越しを行い、遅れた分の研究計画を本年度消化する予定である。
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